50、捕虜解放
一定の間隔まで詰めると、シュミム王国側の兵の足が止まる。
だが後ろからの圧に押されて最前列の隊は止まることなく前進を続けていた。
再びけたたましい鐘の音が鳴ると同時に、声を上げた最前列の捕虜が突進してくる。
「今だ!」
『にゃん!』
タックとフクンが前足を上に掲げて一声鳴く。
すると突進していた最前列の捕虜と後ろの兵との間に、高い土の壁がせり上がってきた。
捕虜たちが驚いて固まる中、レイが静かに魔法を唱える。
「ウィンドカッター。」
無数のカッターが空中に出現し、器用に捕虜たちの首輪を切っていく。
「動くな!」
驚いてしゃがもうとした人をロックが止める。
シュミム王国の騎士団長が首輪を締めようと魔力を込めたときには既に遅かった。
全ての隷属の首輪が外され、解放された捕虜たちが立ち尽くす中、1階にある砦の門が開き顔を覗かせたチルが叫んだ。
「皆さん!入ってください!」
事情を察した人々が我先に砦の中に入ろうと殺到する。
先ほどまでの絶望の表情とはうって変わり、必死に支配から逃れようと生きようとしていた。
「落ち着いて!大丈夫です!」
チルが捕虜たちを砦の中に入れている最中、砦の上部では次の段階に移っていた。
タリカたちのいる3階から土魔法で坂道が作られた。
窓が開け放たれ、鎧を付けたリザートホーズにまたがったトムやロックたちが武器を片手に駆け下りてくる。
「前進!前進!」
焦った騎士団長の声で歩兵が動き始めるが、勢いに乗ったリザードホーズたちに蹴り殺されていく。
トムたちは手綱を器用に操りながら騎乗から武器を振るっていた。
「発動準備!」
オシュ王都管理長が魔法発動の号令を出す。
だが詠唱の最中、レシーア率いるタリカ側の魔法部隊が放つ魔法に次々と倒されていった。
「加勢させるな!魔法部隊を優先で潰せ!」
タリカの号令に合わせて、次々とレシーアたちの魔法が撃たれていく。
トムはロックと共に最前線で戦う中、兵の中に知った顔が混ざっていることに気が付いた。
あの時、レイとトムに盗みの疑いをかけたCランクの冒険者と、冒険者になりたての頃教官をしていた男だ。
2人はグルになりレイとトムを陥れ、王都から身ぐるみはがして追い出した。
「許さんぞ。ここで決着つける。」
トムはハルバードを握りしめた手に力を込め、2人に向かって突進していった。




