48、あの時
「もうやめて…。」
何度目だろうか、いつもの悪夢を見る。
いや、悪夢ではない。
前世の記憶だ。
あの時近道しなかったら。
あの時公園を通らなかったら。
後悔しても遅い。
全身の耐えがたい痛みと屈辱と共に、レイは意識を手放したところまで詳細に覚えている。
「レイさん!レイさん!」
聞きなれた安心する声が遠くから聞こえてくる。
次の瞬間、見渡す限り真っ白な空間が広がり、わずかに目を開けると猫2匹と小さい狼の顔が目の前にあった。
アレスが心配そうにレイの顔を舐める。
レイが上体を起こすと、トムがコップを持って入って来た。
「はい。水。」
トムがレイにコップを手渡す。
どんな悪夢を見ていたのかトムは聞かない。
ただ水を持ってきたり、汗を拭いてくれたり、着替えを持ってきたりしてくれる。
水を飲んだ後、心配そうに寄り添う3匹の頭を交互に撫で、レイはトムを見た。
「用意出来たらタリカさんの所行きましょう。ご飯食べますか。」
「少しな。」
「パンとスープ用意させます。」
トムは奴隷たちに食事の用意を指示した後、レイの方を振り返った。
「用意して先行ってます。タック。フクン。レイと一緒に来てね。」
「にゃん。」
「分かったー。」
2匹の返事を聞いて、トムは部屋から出ていった。
レイの部屋に食事を持った奴隷たちが入ってくる。
トムが気を利かせてくれるため、全員女性の奴隷だ。
レイはもう一度3匹を撫でると、少しずつ食事を口に運んでいく。
食欲は無い。
美味い不味いも分からない。
ただ淡々と口に物を運ぶだけだ。
食事を終えて食器を無造作に脇のテーブルに押しやると、レイは身支度を始めた。
機械的に身支度を終えた後、アレスの頭を「行ってきます。」と言いながら撫でた。
アレスはわずかに尻尾を振る。
階下に行くとマールがいた。
いつもの通り、柔らかなクッションに身を押し込めるように座っている。
「支度できたのかい?」
「はい。行きます。」
「行っといで。気をつけてな。」
いつもは座ったまま見送るマールが、このときは椅子から立ち上がりレイの肩をポンと叩いた。
「アレスお願いします。」
「任せな。無事帰ってくるんだよ。」
「はい。」
タックとフクンを肩に乗せ、レイは家を出た。
歩いて10分もかからない砦へと向かう。
既にスミスやカンタに連れられた大勢の奴隷たちが砦へと集まっていた。
レイは立ち止まり大きく深呼吸すると、人ごみをかき分ける様にタリカの執務室へと入った。




