42、ポッタ家の異変
「おーい、レイ。客だぞ。」
4大領主会談の少し前のこと。
今日も仕事をサボっているタリカがレイの家の中に入ってきた。
ドラゴンダンジョンから戻ったレイは、椅子に座って寛いでいたところだ。
「ん?」
「客だ。」
タリカの背後から見慣れた顔がレイを見つめる。
いつもニコニコしているポッタだが、今日は激しく泣いたのか目が真っ赤だ。
ふっくらとしていた顔は、今はゲッソリとやつれている。
思わずレイは椅子から立ち上がった。
「どうしたんです。ポッタさん。」
ポッタはおずおずとタリカの前に出ると、跪いて懇願した。
「私の息子が帰ってこないんです。私の息子が。」
泣きだしたポッタに駆け寄ったレイは、時間をかけて事情を聞き出す。
ポッタの息子は商人見習いとして父の仕事を手伝っていた。
少し前にポッタの代わりに王都へと商談に行ったのだが、音沙汰が無いという。
「家に帰る途中なんじゃないのか。」
「いえ。商談が終わったら連絡が来るはずなんです。」
商談が終わり次第ギルドを通じて連絡があるのだが、今回は無いという。
商人ギルドを通じて相手に確認したが、まだ来ていないと言われた。
「その商談相手が嘘をついてるんじゃ。」
「いいえ。先代から取引してる信用できる所です。キッコーリの町までは無事だったんです。」
木こり亭に宿を取り、朝早く王都に向けて出発したところまでは確認出来た。
「道の途中で何かあったか。」
「私の息子は元冒険者です。ハイオークくらいは倒せますよ。護衛の冒険者も金使って雇ってますし。」
レイは王都から追い出された時のことを思い出していた。
オークの軍勢に襲われたりしたが、王都とキッコーリ間の街道は比較的安全だ。
レイとトムが王都から身ぐるみ剝がされて追い出された後、魔物に襲われもせずにキッコーリ村までたどり着けたことも考えると、街道ではなく王都で何かあった可能性が高い。
次第に不安になってきたレイはポッタに調査すると約束し、通信袋を使ってミナにすぐ来るように伝えた。
程なくしてきたミナに事情を説明し、王都での調査を命じる。
「分かった。ジャミ使うよ。」
「ああ。こき使ってくれ。」
定期的に王都でレイの奴隷を探しているスミスと一緒にいるジャミを使ってでも詳細に調査をするようにお願いする。
一連の様子を見ていたタリカは、そっとレイの家から出た。
砦に戻ると執務室の椅子に座り、猛烈に仕事を始める。
「珍しいこともあるもんです。」
部下がブツブツ何かを言っているが、タリカは気にするそぶりも無い。
一気に何かを書きあげると入れた封筒に丁寧に封蝋をし、傍らの部下に渡す。
「誰か信用できる奴に。兄貴に持っていってほしい。」
「次に会う時に。」
「時間が無い。いつ始まってもおかしくない。」
何が始まるんだと疑問に思う部下だが、タリカの真剣な表情を見て言葉を飲み込んだ。
タリカは部屋を出ていく部下から窓の外に目をやる。
いつもと同じくアウドの町が見えるだけだが、見つめるタリカの表情は険しい。
「レイにはいつ伝えるか。いや。伝えない方が良いか。」
独り言をつぶやきながら、タリカはこれからのことに思いを巡らせていた。




