41、4大領主会談
4大領主の1人であるライバを乗せた馬車がシュミム王国の王都へと入っていく。
ライバは向かいに座る2人の従者から目を逸らすと、窓から街並みを眺めながらつらつらと考えていた。
見えている範囲は以前と同じく華やかだが、一本裏通りに入ると悲惨な状況であることを知っている。
王都では貧民が増え治安が悪化していた。
ローミ領でもペガルダンジョンが停止し、治安が悪化している。
アウド領は収入が激減し、それを補おうと各町村に重税を課した結果、潰れた町や村がいくつもある。
ライバ領とドイン領は相変わらずだが魔族や強い魔物と常に対峙しているため、気の抜けない状況を強いられている。
「どうなるんだ。この国は。」
ライバは呟いた。
何か重苦しい空気に国中が満ち溢れているようだ。
ライバを乗せた馬車はそのまま城内へと入っていく。
扉の前で止まるとライバは馬車から降り、城の中へと入っていった。
通された先の部屋では既に3人の大領主が座っていた。
ピリピリとした空気が伝わってくる。
小声で最後になったことを詫び、ライバはドインの横に座った。
それを合図にするかのように王が奥の扉から部屋に入ってくる。
突き従う大臣と騎士団長の顔は険しい。
王はわざとらしく咳をすると、大領主たちを見回し上座へと腰を下ろす。
「おほん。本日もお集りいただき有難く思う。それでは領の状況を報告せよ。」
「ダメね。タリカん所の嫌がらせが凄いのよ。」
勢いよくアウドが話始めた。
何でもアウド領と接する隣国のタリカ領が栄えているそうだ。
荒れ地を整え、安い宿屋や食堂を作ったという。
「そのせいでうちが儲からなくなってんのよ。どうにか出来ない?」
今までボッタくっていた事実を無視したアウドが王と大臣に詰め寄る。
その横に座るローミも渋い顔だ。
「もうちょっと慎重に動いてくれないとね。あんたらが逃がした勇者崩れが俺のダンジョンを荒らしやがった。」
ローミが言うには、その男が攻略した後にペガルダンジョンが完全に停止したという。
さらに治安も悪化しているということだ。
「寿命なんじゃないの?」
「はん。ダンジョンに寿命なんて無いね。あいつらがなんかやらかしたに決まってる。」
神経質に爪をいじっていたローミはアウドに食って掛かった。
2人から話題を逸らそうと、大臣はライバに話を振る。
「ライバ領はどうかね。」
「うちは変わりないですよ。相変わらず危険な森です。」
最近迷いの森からオーガやワイバーンが毎日出てきている。
おそらく森に住み着いたキングウルフ一行が原因だが、ライバはその事実を隠して報告した。
「俺んところは逆に静かすぎるな。魔族が襲ってこない。」
腕を組んだドインが最後に話す。
ドイン領は平和すぎて逆に不気味だそうだ。
魔族3人をレイたちと討ち取って以降、魔族の襲撃が無い。
「ちょっとタリカんところ、どうにかしてくんない。稼げないわよ。」
「俺んところもどうにかしてくれ。治安が悪い。お前ら兵士の数減らしてんじゃねえよ。騎士団長さんよ。どこまで辞めていくんだ。」
最初の話に強引に戻したアウドとローミを大臣が制止した。
「静粛に。王から今後について話がある。」
「うむ。まずはこちらの方々を正式に紹介しよう。」
王の言葉に反応して奥の扉が再び開く。
3人の勇者がニヤケた顔で入ってきた。
「何をするつもりだ。」
勇者たちを睨みつけながらドインが怒気を含んだ声を発する。
ビクッとした3人はドインから顔を逸らした。
「今から話すことは極秘だ。一度しか言わないからよく聞くように。」
大臣の話す内容にライバとドインの表情は次第に曇っていく。
大臣が話し終わるとライバが青ざめた顔で詰問した。
「私やドインの所からも兵を出せということですか。」
「無理だな。その間に魔族に襲われたらどうする。」
「そうですね。こちらも毎日ワイバーンやオーガ来ますし。兵は出せませんね。物資は出せますけど。」
兵は出せないという2人の領主に対し、大臣は慌てて弁明した。
「その辺りは大丈夫だ。兵の補強は既に行っている。」
「金ないのにか。」
ドインの鋭いツッコミに対し、大臣は口をつぐむ。
「おほん。それは心配しなくても良い。それでは夕食までゆっくり部屋で過ごせ。」
王が大臣たちを引き連れて部屋を出て言った後、4人の大領主は立ち上がりそれぞれ部屋を出る。
ドインがライバに歩幅を合わせるように歩く。
アウドもローミもいるため言葉には出さないが、ライバはドインの考えが分かるような気がした。
(そうですね。早く知らせねば。)
4人の大領主は無言のまま、あてがわれた部屋に入っていった。




