40、流出
ニコニコしているカンタの後ろには、沢山の人が並んでいる。
全員タリカ領への移住希望者で、レイの奴隷になるため順番待ちをしていた。
皆タリカ領の建物や食事に興味があるのか周りをキョロキョロ見ている。
そんな移住希望者たちを案内しているカンタの元にレイがやって来た。
「カンタお疲れ。」
「ありがとうございます。他にも連絡をくれた村があるので。」
「休んだ後お願いできるか。」
「はい。」
カンタは少し前からアウド領でひそかに活動していた。
重税に苦しむ村を回り、タリカ領へ移住しないかと勧誘している。
廃村になるとその責任を取り村長が犯罪奴隷となるが、村人は重税から解放される。
解放されても行く当てが無いからと廃村を躊躇している村を調べて、村長と交渉するのがカンタの役目だ。
元アウド領内で村長だったため顔が広く、今まで10を超える村の勧誘に成功していた。
犯罪奴隷となった村長もアウド領の奴隷商人から買い取り、村丸ごとタリカ領に移住している。
レイが一通り奴隷紋に魔力を流し終わった後、ダンジョンでの活動を終えたトムが近づいてきた。
「大分順調ですな。」
「そうだな。1万人超えた。」
レイの返事にトムは目を丸くする。
「凄いですね。もうそんなに。」
「それだけあの国がダメになってるってことだろ。」
「そうかもしれませんね。キッコンさんも言ってましたし。」
シュミム王国内は今、領や町の格差が拡大している。
ライバやドインの領はさほど影響は無いが、ローミやアウドの領内では貧困と犯罪が蔓延し、スラム化が進んでいる町や廃村となった村が続出しているのだ。
また王都直轄の町村も、キッコーリのように拡大している町もあれば、盗賊や魔物に襲われて廃墟と化している所もある。
「何でこんなになっちゃったんですかね。」
素直なトムが首をかしげる姿を見て、コッソリ仕事をサボって遊びに来ていたタリカが微笑む。
「何か笑ってるなあ。」
タリカの笑いを目ざとく見つけたレイに対してタリカは言った。
「全部レイたちのせいなんだよなあ。」
何故俺たちがシュミム王国衰退の原因になるのかと顔を見合わせるレイとトムに対してタリカが言う。
「良いか。シュミム王国の経済を支えていたのはローミとアウドだ。その領がダメになったんだから当然だろ。」
タリカの説明では、
①ダンジョンで金を稼いでいたローミ領の高難易度ダンジョンを潰した。
②貿易関連で金を稼いでいたアウド領のすぐ近くに競合する町を作った。
ことが原因だというのだ。
「でもライバとドインの所は。」
「あの2つはどっちかって言うと防衛だな。だからあまり影響は受けないと。」
「なるほど。」
納得するレイとトムを見つめながらタリカは考えていた。
これから厳しくなる。
国内の不満勢力を抑えつつ、シュミム王国の状況も注視しなければならない。
どこまで行くのか。
最悪の事態について頭を巡らせるタリカだが、探しに来た部下に見つかり砦へと引きずられていった。




