36、うんこ
チルが無表情で火魔法を撃っている。
かなりの高火力で地面にある何かに向けて撃ち続けている。
「これくらいで燃え尽きましたかね。」
撃つのを止めたチルがレイの方に振り返って言った。
「ありがとう。こんなことで魔法使うとは。」
「ね。」
レイの隣にいるトムも無表情だ。
「どうすっか。」
「難しい問題っすな。」
チルが高火力で燃やしていたのは人間が出したアレだ。
通常旅の最中にもよおしたときは、森の中に穴を掘って用を足す。
他の旅人に対するマナーであり、臭いで魔物が寄ってこないようにするためでもある。
だが、タリカの領内にある荒れ地は全く魔物が出てこない。
土も固く穴を掘るのが大変だからか、そのまま用を足す輩が多い。
特に固形物はそのまま形が残るため、遠くからでも『ある』のが分かる。
それでも以前は問題にならなかったが、交通量が増えた影響で人の目につくようになり、苦情が多くなった。
直ぐに解決することが出来ない、どうするか難しい問題だ。
立て看板を設置することも検討したが、人間の生理現象を止めることは出来ない。
「馬車で1時間ほどの距離ごとにトイレ作るか。」
「トイレだけ作ってもですな。」
「そうなんだよなあ。」
「トイレと一緒に食事取れるところとか、休憩できるところとか。」
「あと物買えるところとかな。」
「そうすると奴隷の数増やさないとですな。」
「そうだな。治安考えると戦える奴な。」
「はあ。」
トムが盛大にため息をついている。
チルは相変わらず無表情のままだ。
「町って大きくなると思いもよらなかった問題出てくるな。」
「そうっすね。自分もうんこに悩まされるとは思わなかったです。」
「言うな。」
「取り敢えず宿を中心として作っていきますか。」
「そうするか。チルありがとな。なんか…風呂入ってくれ。」
「はい。お二人とも…なんか遠い。」
何も付いていないにも関わらずレイたちから微妙に距離を取られているチルは、無表情のまま頷いた。




