35、ドインのお願い
「うおおおおおお。久しぶりだなあ。」
「うわあああああ。」
寝起きのレイはクマのような大男の声に驚いて尻もちをついた。
クマ男の隣にはトムが苦笑しながら立っている。
「ドイン?」
「そうだ。」
「何で。」
「来たぞ。」
「だから何で。」
「そりゃお前に会いに決まってんだろ。」
距離を取り警戒するレイに対して、ドインがガハハと笑った。
「捕まえにじゃねえよ。よその国で問題起こすわけないだろ。」
「じゃあ。」
「お前にお願いがあって来た。」
ドインがレイの前にドカっと座る。
「ドラゴンとゴーレムの出るダンジョンがここにあるそうだな。」
「何故それを。」
「この間王都をウロチョロしてたお前の奴隷のちっちゃい奴を捕まえて聞いた。」
「あいつ。」
おそらくジャミが話したのだろう。
王都から帰ってきたらシバキ倒そう。
だがここにいないジャミの処遇について今考えても仕方が無い。
レイは考えることを諦めてドインに言った。
「ダンジョンはあるが。」
「お願いとはな。そこを使わせてほしい。」
トムに促され、レイとドインはテーブルに向かい合って座った。
「実はあれから魔族が襲ってこない。」
聞くとドインがレイたちと3人の魔族を倒した後、魔族やドラゴンの襲来が無いそうだ。
「しかもな。」
ドインが話を続ける。
「ローミの所のペガルダンジョン、無くなった。」
「無くなった。」
「ただの穴ぐらになっちまった。」
「…。」
レイたちにはペガルダンジョン停止の理由が分かっている。
レイがペガルダンジョンのダンジョンコアを取ってしまったからだ。
だが、ドインもローミもそのことを知らない。
ドインが言うにはローミ領は今、大変な状況らしい。
ペガルダンジョンで活動していた上位の冒険者が、稼げなくなったからと他の国に行ってしまった。
シニフォダンジョンで活動する冒険者は残ったが、冒険者同士の争いを止められる強い者がおらず、治安が悪化しているらしい。
AランクやBランクの冒険者は強いだけではなく、王や大領主から手柄を認められるだけの貢献をしているため普段の言動にも気を使っているが、下位ランクの冒険者はそうではない。
「盗み・暴行・恐喝、何でもありになっちまってる。」
ローミは王に対して救援を要請したが、王都から騎士団が派遣されることは無く、ドインの部下と奴隷がローミの町で治安維持に当たっているらしい。
「シニフォダンジョンでも鍛えてるがな。」
ドインはトムが出した朝食をワシワシと食べている。
「高レベルの奴らには何の足しにもならん。」
「それでこっちのダンジョンを。」
「そうだ。礼は弾むし口外しない。まずは。」
ドインは懐からガサガサと紙を取り出した。
ドイン領の地図で3か所に印が付けられている。
「俺の領でダンジョンがある所だ。ロクなもんがないから好きに潰して良い。ローミ領の方も部下に探らせてる。」
「助かる。」
この3つのダンジョンを攻略すれば、全部でダンジョンが16になる。
5件目の宿を作れるし、食料採取用のダンジョンが増やせる。
だが、とレイは考えていた。
「ドインの部下や奴隷たちはどうやって連れてくるんだ。もしドインがここにいる間魔族が襲ってきたら。」
キッコーリ町近くの転移魔法陣まで行くのに、ドインの速さでも片道2日かかる。
ドインは地図に記されている中で、ドインたちが住む要塞に一番近いダンジョンを指さした。
「ここを早く潰してくれ。ここに転移魔法陣を作りゃいい。」
「転移魔法陣…ってなんで知ってるんだ。あとここまでどうやって来た?」
レイはドインが転移魔法陣を知っていることに驚き、またタリカが隣国の大領主をそんなに気軽に通したのかと疑問に思う。
抜け道を通るにしては、ドインの体はあまりにも大きい。
「おう。キッコーリの転移魔法陣使ったぞ。王都にいるお前のちびっこ奴隷に聞いたんだ。すばしっこくって捕まえるのは大変だったがな。」
豪快にガハハと笑うドインに対して、レイはジャミを徹底的に、かつ念入りにシバキ倒そうと固く決意した。




