34、発酵と熟成
スミスとエラが、レイたちの家の地下室で落ち込んでいる。
「ダメでしたね。」
「そうだな。」
2人の前にはタルがあり、底に潰したブドウが干からびて張り付いていた。
「やっぱり酒造りは無理か。」
レイも地下室に降りてきて干からびたブドウを見てうなだれている。
エラはキッコーリ町の店を畳み、タリカ領に引っ越してきた。
こちらの方が色々な物を作れるからだという。
今もスミスと一緒に酒を造ろうと試行錯誤していた。
出来上がったものについては密閉して保存すれば良いが、作るには樽に入れたり外気に触れさせる必要がある。
タリカ領は乾燥した荒れ地で草木1本生えていない。
そのためかパンを発酵させたり、酒を熟成させることが出来ないのだ。
今はキッコーリ町から取り寄せているが、宿や店が増えるについて消費も増えており、こちらでも作れないかと考えていた。
「どうするか。水車の横にでも熟成場所作るか。」
水車小屋の中に作ればとレイは提案するが、エラは首を振った。
「それは難しいですね。水に入るとマズいです。」
「水車小屋自体を完全に密閉してるからな。開け閉め大変だぞ。」
ダンジョン内から水を引いている水車小屋は蒸発を防ぐため、継ぎ目のない小屋の中にある。
入り口も小さく2重扉な上にレイの土魔法で全体を覆っているため、出入りするだけで大変時間がかかるので現実的ではないとスミスは反対した。
「キッコーリ町に生産量増やすようお願いするか。」
ここで作れないならば、とレイは考える。
「でも向こうも人増えてんだろ。限界があるだろ。」
村から町になり大量の人が移住したらしい。
拡張して増築した集合住宅は、既に満員だそうだ。
「どうする。温度と湿度が多少あって一定に保ててるところといったら。」
「ダンジョンだな。」
「影響ないんですかね。」
3人はダンジョン内で作れないかと思案したが、どのような影響があるか分からない。
「猫ちゃんたちに聞いてみてくれ。」
スミスがタックとフクンに尋ねるように提案したため、レイは2階で遊んでいる3匹のところに行った。
「タック、フクン、ちょっと良いか。」
「何ん。」
2匹はアレスと一緒に毛づくろいをしていた。
「ダンジョンの中で何か作ると問題あるか。」
「何かって何?」
「例えば熟成肉とか。」
2匹が酒やパンに全く興味の無いことを知っているので肉を例えに出したが、タックとフクンは目を輝かせた。
「作ってくれるの!」
「わあい。」
2匹はアレスと一緒に喜んでいる。
「うん。作れたらね。」
酒やパンよりも先に作らなければならなくなったが、それでも良いとレイは思っていた。
「出来ると思う。」
目を輝かせたタックが答える。
「そうなのか!」
「ダンジョンでご飯作っても大丈夫でしょ。野菜とか作っても。」
「それもそうだな。」
「でもずっと置いとくとどんなになるか分からないかな。」
フクンは心配そうな顔をしている。
どうやら大丈夫だが長く置いているとどのような影響があるかまでは分からないらしい。
「でも作れそうだな。作ってみるか。」
「お肉。柔らかいお肉。」
よだれを垂らしながら見送る3匹を背にスミスたちの所に戻る。
レイはスミスやエラと共に材料を抱えて、薬草を栽培するドリュアスダンジョンに入っていった。




