33、本来の目的
レイはゆっくりと酒を飲みながら、星空を見るのが好きだ。
今夜も屋上で満点の星空をずっと眺めている。
もう少し酒を飲もうか、でも持ってきた瓶は既に空だ。
追加の酒を台所から持ってこようかと少し迷っていたところに、トムが酒の瓶を持って近づいてきた。
「おっ、ナイスタイミング。」
「俺のことですか、酒のことですか。」
トムが笑いながら隣に腰掛ける。
トムはレイとは反対に、眼下に広がる町を見渡した。
ポツポツと明りの付いた街並みが、ずっと先まで続いている。
「良い街になりましたね。」
「まだまだ作り足りないけどな。」
「最初何も無かったころから比べると。」
「そうだな。人増えたし。」
この町で働く住民は、ほとんどがレイの奴隷だ。
その数は今では5,000人を超え、町もそれに比例してどんどん大きくなってきている。
4件目の宿を作るかどうか、昨日話が出たところだ。
「何か不満あるんですか。」
「不満というか。」
仰向けに寝転んでいたレイは起き上がる。
「俺は何してんだろって。」
レイは感情の無い顔をトムに向けた。
トムはこれまでのことを思い返していた。
レイは怒りの感情はよく出すが、嬉しさや楽しさを出すことはほとんどない。
タックたちと遊ぶ時は楽しそうだが、それ以外、特に人と接している時は楽しそうではない。
ロックやスミスと酒盛りをしている時でもだ。
気が付くと無表情でいることが多い。
この世界に来てから長い付き合いのスミスでさえ、何を考えているのか分からないと言っているほどだ。
たが、トムはその理由を知っている。
「あいつらですね。」
「そうだ。」
レイは無表情のまま星空を見つめている。
「いつ殺すか。どうやって殺すか。どこで殺すか。いつも考えている。」
「そうですか。」
「だからジャミを使う。」
トムはレイの発言にビクッとした。
「大丈夫だ。危険なことはさせない。王城を探らせるだけだ。」
「奴隷集めの合間にですか。」
「そうだ。ミナも斥候の教育が終わり次第働いてもらう。ダンジョンコア集めも大分進んでるからな。」
「ドインたちと相対することになってもですか。」
「そうだな。奴らを殺した後はどうだって良い。」
「自分が前に言ったこと忘れてますか。」
「トムが言ったこと、忘れてないよ。」
レイは再び寝転んだ。
「俺に生きろと。幸せになれと。」
「そうです。」
トムは力強く言う。
「そうなりたいよ。でも奴らが生きてる限りそうなれない。」
「だから殺すタイミングを探ると。」
「そう。この町も大きくなったし。もし俺がいなくなっても大丈夫だろ。ロックたちもいるし。」
レイは星空に手をかざした。
相変わらず無表情だ。
「殺した後生きたいと思うか、幸せになれるか分からない。でも。」
レイは言葉を続ける。
「今のままだったら、俺は絶対幸せになれない。それだけは分かる。」
トムは前とは違い、黙ったままだ。
トムにはレイの苦しみが分からない。
トムは自分が何をすべきか分からないまま、レイの横で静かに星空を見上げていた。




