31、娼館
レイが顔を真っ赤にして怒っている。
その後ろではレイの女奴隷が怯えたように立っていた。
「そいつらを追い出せ!金はいらん。直ぐに出ていけ!」
屈強な男の奴隷たちに突き飛ばされるように男たちが宿から追い出されていく。
何か悪態をついていたようだが、一言も聞きたくないとレイは男たちに背を向けた。
「大丈夫か。」
「はっはい。何とか。」
レイは怯えた女奴隷に声をかける。
急ぎの連絡を受けたトムも何事かと宿に集まってきた。
「何があったんすか、レイさん。」
トムがレイの元に駆け寄った。
「何でもない。」
「何でもないこと無いでしょ。」
「従業員を娼婦扱いした奴らを追い出しただけだ。」
「娼婦。」
追い出された男たちは冒険者で、宿の廊下を掃除していた従業員の服と下着をいきなり脱がそうとしてきた。
従業員が悲鳴を上げて抵抗したところ、金を投げつけて「ヤラせろ、そのためにいるんだろ。」と暴言を吐いたという。
遅れてスミスやジャミたちも駆け付ける。
「何か大事になったな。」
「レイさん、取り敢えず家に戻りましょ。君も今日は大変だったね。帰って大丈夫だよ。誰か付き添ってあげて。」
トムは被害にあった従業員に帰るように促し、レイを連れて自分たちの家に帰った。
レイとトム、マールと3匹が住む家は、宿屋や店が集まった一画から少し離れた所にある。
レイたちが家に入るとロックウッドやスミス、ジャミたちもゾロゾロと家の中に入ってきた。
しまいにはタリカも家に入ってくる。
「結構な集まりだな。」
「ドラゴンダンジョンが休眠から明けましたからね。レイさんも後で潜るでしょ?」
トムがスミスに手伝ってもらって人数分のお茶を運んでくる。
「でレイ、何があったんだ。」
ロックがレイに尋ねた。
レイは宿で起こったことを話し、従業員の安全確保のため対策を考えると話す。
「娼館作ったら良いんじゃないのか。」
タリカの提案にレイは露骨に嫌な顔をする。
「レイは嫌がるかもだけど仕方が無いことよ。冒険者が立ち寄る町には必ずあるもの。」
女性であるはずのレシーアまで作るのは仕方ないことだと言い出す。
冒険者は気性が荒い者が多いため、ストレス発散のために酒場や娼館、賭博場は必要だということだ。
それではとレイは少し考えて意地悪な質問をした。
「娼館を作るとして、じゃあレシーアが働くか。」
「嫌よ!」
レシーアが即座に反応した。
自分の矛盾に気が付いたのか、レシーアは顔を真っ赤にして言い返さない。
レイは皆を見回した後、言った。
「俺は自分の奴隷を性奴隷にするつもりはない。そういうことが好きでたまらないから働かせてほしいと言う奴隷がいれば作るが。娼館行きたいならアウドの町に行けば良い。それだけのことだ。」
続くようにトムが意見を出す。
「ここはタリカさんの領土ですが、働いてる人はレイさんの奴隷です。レイさんが働かせないと言ったらそれに従うのが筋でしょう。」
レイの奴隷に何をさせるかはレイが決めるべきことだという。
タリカも確かに…と口を挟む。
「俺は娼館がある方が良いと思うが、それだったら俺が建物と人を用意すべきことだな。この問題はこれで終わりだ。レイが自分の奴隷に何をやらせるか俺は強制出来ない。」
各人がやれやれと言ったように散開していく。
そんな中、ジャミがレイに近づいてきた。
「レイ、ありがと。」
「ん、何だ。」
「奴隷だって人間だからね。嫌なことは嫌だもんね。」
今回被害を受けた従業員は、ジャミと一緒に保護された女だった。
引き取り先の娼館が拒否したため、レイが自分の奴隷にした経緯がある。
そうだなと言いながらレイはジャミの顔を見た。
「お前はそうはいかない。ぎっちぎちに働いてもらうぞ。」
「げっ、嫌だああああ。」
ジャミは叫びながらダッシュで逃げていった。




