30、神々の砦
タリカは賢王と呼ばれる現国王の異母弟だ。
タリカの母親は前国王の妾だったが、美人で頭が良いため非常に気に入られていた。
その母親が若くして亡くなった後、独りぼっちになったタリカを守ったのが現国王のアッカだ。
アッカディーと言うのが彼の本名だが、呼びにくいためタリカはいつもアッカと呼んでいた。
タリカとアッカは周囲が止めるのも聞かず、いつも一緒に遊んでいた。
タリカが大きくなり、真贋のスキルがあることが分かって一番喜んだのがアッカだ。
多くの貴族たちは彼らが仲良くするのを嫌がった。
頭は良いが何のスキルも持っていない王位継承者であるアッカ、頭が良く王として都合の良いスキルを持つタリカ。
タリカが担ぎ出され王位継承の争いが起こるのではと危惧されていたが、前国王が無くなった後アッカが王位を継承することをタリカは喜び、自身は辺境の不毛な地の領主におさまった。
貴族の中にはタリカがシュミム王国と手を組んで、アッカディー王国を攻めようとしているのではと邪推する者もいた。
だがタリカの本心としては、兄から離れた地で静かに暮らしたいというだけだった。
そんなタリカの静かな暮らしが、最近賑やかになっている。
レイという不思議な男が、タリカ領にダンジョンを作り始めた。
自分の奴隷を集め、ダンジョンを拡張し、集めた素材を基に宿屋や店を作っている。
アッカディー王国内では、タリカがクーデターを起こすために力をつけているのでは、いやレイという怪しい男がタリカ領を乗っ取ろうとしているのではないかと色々な噂が立っている。
だが、当の本人たちは純粋に町づくりを楽しんでいるだけだった。
ある日レイは定期報告をしにタリカの住む国境の砦へと行った。
タリカはいつものように部下から監視されながら、ブスッとした顔で書類仕事をこなしている。
「おっ、よく来たレイ。」
タリカは椅子から弾かれたように立ち上がり、レイの元へと駆け寄った。
レイはいつものように報告する。
3件目の宿屋を作ること。
酒場や武器屋の他、色々な店を作ること。
情報漏洩を警戒して斥候の教育を始めたこと。
タリカはうんうんと頷きながら話を聞いていて、最後の報告を聞き終わったところで口を開いた。
「斥候とはな。確かに国内で色んな噂が出てるが。」
「ダンジョンのこと知られる訳にはいかないんでね。」
「そうだな。俺もダンジョンの作り方知らないし。」
「俺たちが国を乗っ取ろうと思われてんですかね。」
「何の誤解だかねえ。」
2人は笑いあう。
「それで提案ですが。」
レイは言葉を続け、国境の砦を補強することを提案する。
レイの家はミスリル合金とキングゴーレムの石材を使い、頑丈な家を建てた。
その他の建物もミスリル合金とゴーレムの石材を使い、レイの土魔法で補強した砦のような建物である。
ドラゴンが攻撃してもビクともしないだろう。
だがレイの提案に対してタリカは即座に首を振った。
「お前が強いことは分かってるが、やらなくて良いよ。この砦は特別でね。」
「特別。」
「この荒れ地が出来た原因知ってる?」
「確か昔、神々が戦ったと。」
「そう。その時に作られたのがこの砦だよ。アッカディー王国が外観を作ったが。中は昔のままだ。」
「神が作ったんですか。」
「人なのか魔物なのか神なのか、誰が作ったか分からないけど1000年以上ここにあって、どんなことしても傷一つ付かないよ。」
「凄いですね、どんな材料が使われてるんだろう。」
「分からないけど。だから補強は必要ないよ。この砦がある限りシュミム王国にはそう攻められないさ。」
レイは天井を見上げる。
鈍く黄金に輝く天井には、確かに傷一つ付いていなかった。
「神々の戦いは最後どうなったんですかね。」
「おとぎ話では今の神様が勝って、世界中が光で満ち溢れて祝福の鐘が鳴り響いたそうだよ。」
「そうですか。神様ってどんなんだろう。」
「まあ、実際には会えないから分からないね。啓示は来るけど。」
女であった自分を男に転生させた神とは…と、レイは疑問に思いながら砦を後にした。




