29、貴族の妨害
茶色い長い髪の女がレイたちの住む家に入ってきた。
「ただいま。」
少し不機嫌な彼女の後ろには、タリカの部下が気まずそうに立っている。
「レイさんお帰んなさい。どうしたんすか。」
客が来ているからとお茶を3つお盆の上に乗せて、トムが部屋に入ってくる。
「もっと早く言ってほしかったと思ってな。」
レイはかつらを外してテーブルの上に放り投げた。
「申し訳ございません。タリカ様に口止めされていて。」
いつもタリカを小突いているとは思えないほど、部下は恐縮している。
レイは先ほどまでレイナとしてアッカディー王国のダンジョンを攻略していた。
町のすぐ近くの森に毒持ち魔物が多く出現するダンジョンがあり、騎士団が警戒にあたっていた。
レイたちにダンジョン潰しの許可が下り、ダンジョンコアを取るべく潜っていたのだ。
「でダンジョンコアは取れたんですか。」
レイは黙って魔法袋からダンジョンコアを出し、テーブルの上に置く。
「ん。無事取れたんすね。で何かあったんすね。」
「実はな。」
レイとロックウッドがダンジョンを攻略しようとすると、ダンジョンの近くにある町の領主が騎士団を帯同させると言ってきた。
自分たちだけで大丈夫だとレイが断ると、監視のためだという。
ダンジョンコアを取るところを見られたくないレイと領主で揉めたそうだが、結局押し切られて騎士団が帯同することになった。
「でボス倒した後ダンジョンコア取らずに帰ったよ。後でミナとコッソリ取りに行った。」
「大変でしたね。」
「奴ら魔物も倒さないし、疲れた。」
レイは椅子に深く座り直し、ため息をつきながら天井を見上げた。
「で、タリカの部下さんは何故。」
ここにいるのかとトムは尋ねる。
レイは素早く部下を見ると、トムに答えた。
「アッカディー王国の連中、ダンジョン作りのスキルを寄こせと言ってきた。」
「何ですと!」
トムが目を見開いた。
少しイラっとしたようだ。
「申し訳ございません。」
やっと声を絞り出したタリカの部下は、レイに促されて椅子に座った。
「タリカ様には言うなと言われてたんですけど。」
タリカの町がダンジョンを使って繁栄していることがアッカディー王国の貴族連中に知られた。
どのようにダンジョンを作っているのか分からないが、有用な素材が採れるダンジョンを次々と作っている。
その技術を王に献上せよということらしい。
「国王様は献上しなくても良いと仰っています。」
「それが救いだな。」
タリカの異母兄である国王は、今まで不毛の地であったタリカ領の繁栄は国の繁栄につながるとして技術の献上や公開は求めていない。
だが、タリカのことを快く思っていない貴族連中は、辺境の地でタリカの評価が上がることが我慢ならないようだ。
タリカ領のダンジョン作りと運営が他の領にも活用できると、タリカにしつこく迫っているらしい。
「どうしたもんすかね。」
トムは難しい顔をして腕組みしている。
「申し訳ございません。でも今まで通りで大丈夫です。タリカ様はこれは自分の仕事だからと。貴族連中の相手をしてますんで。」
タリカの部下は気にせず今まで通りにしてくれたら良いと言う。
トムがまずはと前置きしつつ、
「いつものメンバーには注意しときますか。」
「そうだな。情報を盗みに斥候を送り込まれるかもしれないしな。ミナには警戒をと。」
レイは考えながら、矢継ぎ早に指示を出す。
「それと斥候系の職業とスキル持っている奴隷は、ミナの部下にして教育するか。」
「ミナと相談して集めます。」
相手から直接危害を加えられない限り、情報が漏れないように警戒するくらいしかない。
レイとトムは顔を見合わせると深くため息をついた。




