23、職人エラ
エラは元々身寄りのない貧困街出身の少年だ。
物乞いをしていたところをスミスに救われ、弟子として店番を任されるようになった。
数いる物乞いの中で何故エラを助けたのかをスミスに聞いたところ、物乞いの仕方が実にユニークだったという。
普通の物乞いは目の前に入れ物を置き、ブツブツと助けがいることを呟きながら、ひたすらお金が投げ込まれるのを待つ。
だがエラは『道具で困っていること、お助けできるかも』と描かれた紙を首からぶら下げ、町ゆく人の困りごとを解決してお金をもらっていた。
ある人は壊れた車輪を直してほしいと言い、ある人はこの道具をもっと便利にしてほしいと言い。
中には絶対に直せないような道具を持ち込む意地悪な人もいたが、その意地悪な期待を裏切るかのようにエラは何でも直してみせたし、便利にしてみせた。
そんな手先が器用で道具の改良も出来るエラがスミスの弟子になり、鍛冶だけではなく読み書き計算も出来るようになる。
キッコーリ村への移住を希望したためスミスの弟子ではなくなったが、2人の関係は未だに良好だ。
「お久しぶりです。」
キッコーリ町近くにある転移魔法陣からエラがやってきた。
「久しぶり。魔法袋の販売はどうだ?」
スミスが魔法袋の売れ行きを聞く。
「ぼちぼちですね。ポッタさんが結構買って下さるので。」
ポッタはエラから魔法袋を買い、アッカディー王国の商人に売り利ザヤを稼いでいるようだ。
ポッタは相変わらずかとレイは苦笑しながら、エラに水をくみ上げる装置の製作を依頼する。
「んん。時間かかると思いますが。」
「大丈夫だ。材料は出来る限り用意する。」
エラはダンジョンの中を見たり、荒れ地の土を触ったり、建物の裏手を確認している。
何か呟きながら紙に図面を描いていた。
何人かの奴隷にダンジョンの中から宿屋の裏手まで、水路を掘るように指示している。
ダンジョンから一直線に水路を掘り、宿屋の裏手に作ったため池に水を溜めている。
傾斜をつけて水路が作られたため水が流れてくるが、荒れた土地にどんどん水が浸み込んでいった。
「何か管ありますか。」
「待ってろ。直ぐに作る。」
元弟子の要望に元師匠のスミスが応える。
ミスリル合金製の管が作られ、地中に水路に沿って埋められていく。
ついでにとミスリル合金製の大きな入れ物が作られ、ため池にはめ込まれた。
ダンジョン内から水が徐々に流れてきてため池に溜まっていく。
懸念していたスライムだが、魔物が外に出られないようにする魔法陣をレイが描いているため、外に出てくることは無かった。
「後はこれを上にあげるだけですね。」
エラが建物を見上げながら呟いた。




