22、土木工事
レイたちが宿屋を開業すると、新たな問題が発生した。
水が不足するのだ。
レイたちが使うだけではなく、宿屋でも大量の水を使う。
宿の裏手にはスライムダンジョンがあり、そこから水を運んで溜めているのが、全く追いついていない。
開業した当初は奴隷が経営する宿だからか泊まる旅人は少なかったが、口コミで評判が広がったのか、次第に客が増えている。
問題を解決すべく、レイたちが久しぶりに集まった。
レイたちはダンジョン内での魔物の討伐や鍛冶仕事、ダンジョンコア探しなどで別々に活動することが多い。
集まるのはレイがニンニクを食べようとしたとき以来だ。
各々近況を話す中、レイが口火を切った。
「水不足解消のために、いいアイデア無いか。」
「うーん。」
「確かに人の手で運ぶのは限界ですね。」
「ダンジョンは大きくなってるから、湧き出る水の量は多いんだがな。」
スライムダンジョンはダンジョンボスを倒すと2日間の休眠期間に入り、休眠期間が明けるとダンジョンが拡張する。
宿屋開業前に、トムが中心となり繰り返し拡張していたため、出る水の量は豊富だ。
ダンジョンは複数階層になることが多いが、スライムダンジョンは1階層のままで広さと湧き出る水の量が増えている。
それをそのまま自動で運ぶことが出来れば水不足は解消するが、現状は人の手で運んでいる。
魔法袋を使うため手運びするよりも楽なのだが、それでも運ぶ水の量に限界があり不足していた。
意見が中々出ないため、レイは側でくつろいでいるタックとフクンを見つめる。
2匹の知識の中にあるおじいちゃんの知恵で、何か役に立つものは無いか。
「タック、フクン。ダンジョンから外に水を引くこと出来るか。」
「出来ないにゃ。」
タックが即答した。
「だって水出したら魔物も出ちゃうもん。魔物出さないようにすれば出来るにゃん。」
フクンが補足する。
2匹の回答に皆が唸る中、サクソウが静かに言った。
「水ダンジョンにいるのはスライムですよね。荒れ地に出たらすぐ干からびて死ぬんじゃ。」
「あっそうか。」
スライムは水辺でしか生息できない。
素手で倒せるほど弱いスライムは、乾燥した荒れ地に出たとたん死ぬだろう。
「じゃ、水出すこと出来るにゃ。」
スライムの問題が解決するならば可能だとタックは言う。
「じゃ、水をどうやって引くかだな。」
スミスが天井を見ながら言った。
「地下に管通して、その中に水が流れるようにする。」
「どうやって高い所に水流すんだ?」
ロックが鋭い問いを放つ。
宿屋や住居の上階層まで水を運ばなければならない。
全員が考え込む中、スミスが静かに言った。
「1人解決できるんじゃと考えてる奴いるんだが。エラ呼んでいいか。」
スミスはかつて自分の弟子だった少年の名前を挙げた。




