20、いざ実食
毒の森から離れた場所で夜を明かしたレイたちは、そこでタリカと別れて町に戻った。
自分の家に戻り嬉々として戦利品を袋から出すレイを、トムたちは遠巻きに見ている。
「これ解体できるか?」
ミナに張り付いていたクモの死体をスミスに見せる。
「任せろ。」
マスクと手袋をしたスミスは、クモを持って出ていった。
「じゃ、これは。」
机の上に並べられた植物をレイは目を輝かせながら見つめていた。
「食べるか。」
「ちょっと待てい!」
ロックが思わず突っ込む。
「死ぬぞ。」
「死なないよ。魔物じゃないし。」
「どうして分かんだよ。スキルか。」
「うん。」
スキル『真実を見る目』で分かってはいるが、前世の知識も役に立っている。
死因が死因だけに前世のことは極力思い出したくないが、かつて博物館で開かれていた『世界の食物展』で得た知識だ。
展覧会は面白いし珍しいものが博物館内の店で買えるため、3回も見に行ってしまった。
食物が種を蒔いてから成長し、収穫から加工されるまでの一連の流れが展示されていた。
カカオやコーヒーは、収穫した実から加工品が出来るまでの工程を実際に有料体験コーナーで体験していたため、どのように加工すれば良いのか知っている。
カカオの硬い皮を割り、中から果肉ごと豆を取り出す。
そのまま箱の中に入れ、地下室で発酵させる。
コーヒーは実ごと平らに並べて外で天日干しにした。
レイが楽しそうに作業している様子を、トムたちは引き続き遠巻きに見守っている。
レイが、ネギの根を洗って切った後、ユジュカウの肉と炒めて塩を振り食べようとしたところでトムが叫んだ。
「レイさん!やめてください!」
「何だ。食えるぞ。」
「スキルで食べれると分かっても、毒味レイさんがしたらダメでしょ。」
「じゃ、どうする。」
「ジャミ。」
「だから何で俺なんだよ~。」
ロックに羽交い絞めされて、ジャミがレイの前まで連れてこられた。
「そのまま口の中に突っ込め。」
「うわあああああ。人でなしいいいいい。」
ロックから口の中に突っ込めと言われたため、レイは叫ぶジャミの口に肉と玉ねぎを突っ込む。
「おら、飲み込め。」
「んごおおおおお。」
ロックがジャミの口を抑えて飲み込むように促す。
「大丈夫だ。俺を信じろ。ジャミ。」
レイの言葉で涙目のジャミがモグモグし始め、一気に飲み込む。
「うっ、美味い。」
「だろ。」
『えっ。』
信じられないというようにトムたちが固まる。
「これ入れるともっと美味くなるんだ。」
レイはニンニクを取り出し、ユジュカウと玉ねぎと一緒に炒め始めた。
ニンニクの焼ける良い匂いが辺りに広がる。
「美味そう。」
先ほど無理やり食わされたにも関わらず、ジャミがよだれを垂らしている。
焼けた肉に塩を振って、レイはジャミの目の前に差し出した。
「ほい、食ってみろ。」
「うい、…うんめえ。」
ジャミがガツガツと食べているのを見て、トムたちが恐る恐る近づいてきた。
「美味いのか?」
「うん!美味い!」
元気に答えたジャミから発せられる匂いに、トムたちは思わずのけぞる。
『くっせえええ。』
ジャミの口臭に、トムたちはクモの子散らすように逃げ出していった。




