18、毒の森
レイとロックウッドはタリカと共に馬車に揺られていた。
タックとフクン、アレスも一緒だ。
「遅いな。走ったらダメか。」
あまりの馬車の遅さにレイはイライラしている。
「これかなり速いほうだぞ。お前らどんなスピードで走ってんの?」
「これの5倍くらいかしら。」
「遅いよね。コレ。」
「…。」
人間離れしたレイたちにタリカは無言だ。
タリカの領はかなり大きい。
国境の砦から隣の領まで馬車で5日かかる。
そのほとんどが高い岩山と荒れ地だ。
住むには厳しい環境だが盗賊も魔物も出ないため、旅や野宿は比較的容易である。
だが…とタリカは話題を変えた。
「お前ら、俺の領が荒れ地と岩山だけと思ってんだろ。」
「思ってる。」
「言うな。後で面白いもん見せてやる。」
何があるかを言わず、タリカは不敵な笑みを浮かべている。
国境の砦を発って4日後、明日の昼過ぎには隣の領に着くという頃、レイたちは前方に巨大な森を見つけた。
「森あるんだ。」
「ただの森じゃないぞ。中入ってみろ。」
森の側に馬車をつけ、森の中を見る。
タックたちは馬車の中で唸り声を上げている。
「どうした?タック。」
「嫌なもん、一杯あるにゃあ。」
「臭―い。」
「キャン。」
3匹は森の中に決して入ろうとしない。
離れた所まで馬車を移動させて、その中で待つようだ。
「じゃ、行こうか。」
「何か嫌な予感がする。」
「レシーア、サクソウも馬車で待っててくれ。」
レイは万が一を考えてレシーアとサクソウに待機を命じる。
「分かったわ。」
「行ってらっしゃい。」
レイ・ロック・ミナ・ゴザ・タリカとタリカの警護をする兵が、森の中へと入っていく。
「何だ、この木。」
ウネウネしている木をレイは見上げる。
「ナイフでちょっと傷つけてみな。」
タリカに言われるままにレイはナイフで幹に傷をつけた。
途端にドロドロとした緑の粘液が傷からあふれ出す。
「何だこれ。」
「触るなよ、毒だ。」
触ろうとしたレイの手をタリカは止めた。
「ここは毒性の植物や毒を持った魔物しかいなくてな。毒の森と言われている。」
まんまな名前の森にレイたちは絶句する。
「早く戻らない?」
五感が優れているミナは、既に森から出たいようだ。
「しっかし、タリカの所ロクな場所無いな。」
「言うな。」
レイの余計な一言はタリカに怒られた。
ミナが一刻も早く戻ろうと後ろを振り返った瞬間、ミナの目の前に巨大なクモがぶら下がってくる。
「イヤアアアアアア。」
ミナが後ろに飛び下がると同時に、レイが短剣を投げつけた。
クモは絶命したが、タリカから注意される。
「ここで解体するなよ。毒が噴き出す。」
レイは恐る恐るクモをつまみ、魔法袋の中に放り込む。
「他にも魔物を殺す植物もあるぞ。食べると死ぬんだ。例えばアレ。」
タリカの指さす方向を見ると、くすんだ赤色をしたフットボールのような形の実がある。
「甘い匂いとか良い匂いで魔物を誘って、食べたら死ぬんだ。」
「ヤバいな。間違って人間も食べそうだ。」
「この森に入る勇気がある奴がいたらな。」
タリカとロックが毒の実を見ながらワイワイ話をする中、レイの瞳は異常に輝いていた。




