19.乾杯
レイとトムはギルドに立ち寄り、魔石を金に換えた。
50匹ほどゴブリンを倒し、約5000Gを手に入れた2人は家へと帰る。
「お待たせしました。今月の家賃です。」
恭しくマールに3000Gずつ手渡す。
トムの実家だが食事代くらいは入れろとマールに言われ、3人で話し合って1か月3000Gずつ払うことが決まっていたのだ。今まで貯めたお金と合算して6000Gを超えたので、食費を払うことが出来た。
気が大きくなり今日は外で夜飯を食うとマールに伝え、2人は外に出た。
外食といっても場所は1件しかない。
食堂兼宿屋の木こり亭は、2人を温かく出迎えた。
トム絶叫事件があったにも関わらず、ツケを必ず払い、普段は騒ぐことなく静かに食事する2人は、木こり亭の家族に歓迎されていた。
トム絶叫の翌日、2人の子供に「おじちゃん。元気出して。」と小さな花束を渡され、顔がみるみる赤くなっていくトムを見ながらレイが笑い転げたことが思い出される。
小さな子供たちが、焼いた肉と野菜のスープとパンと酒を運んでくる。
ありがとうと言って受け取りながら、2人は静かに乾杯をした。
「だんだん明るくなってきたね。」
木こり亭の女主人アアナが元気よく言った。
夫の倍はある立派な体格をしており、宿屋の仕事だけではなく木こりの仕事もしている。
2人は顔を見合わせながら「装備を取り戻せましたからね。」と言い、食事をもりもり食べ始めた。
「スキル何か分かりました。」
食事が終わり酒を飲み始めた頃、トムが話を切り出した。
「『無制限』は未だ分からないが、『真実を見る目』は何か分かったような気がする。」
「ほ?」
「物がどんな物か、人が嘘を付いているとか何となく分かる。」
「凄いですね。」
「最初はレベルが低いからか何となくしか分からなかったが。城で装備を見たとき何となく良いような気がして選んだ物が良かったしな。」
「それでですか。すごいなと思ってたんですよ。」
「後、この間トムの菓子が無くなったろ。」
「はい。レイさん食べました?」
「いや。マールさん知らないって言ってたが、あれ嘘だ。マールさんが食べた。」
「あんのくそばばあああああ。」
血管が浮き出るほど拳を握りながらトムが叫んだ。
2人が家に帰った後、家族戦争が起こったのは言うまでもない。




