14、王都再び
王都にある奴隷商の店には奴隷たちが溢れかえっていた。
逃亡しないよう地下牢に鎖で繋がれており、牢の前を新たな主人候補が品定めに練り歩く。
地下牢はムッとした匂いが充満し、最低限の食事しか与えられない奴隷たちが、ボロ布を身にまとい力なく座っていた。
その最奥、体の一部が欠損している最底辺の奴隷たちが、狭い牢に閉じ込められていた。
元副騎士団長だった女は、両手足をもがれた状態で、仰向けに寝かされている。
王城でどんな仕打ちをされたのか、思い出したくない過去が繰り返し頭の中に流れてくる。
そのたびにうめき声を上げ、側にいる別の奴隷に体をさすってもらうことが、わずかな慰めとなっている。
死にたくても手も足も無い自分には無理な話で、生きながらの地獄を味わっていた。
とある日、とある老人が地下牢の前を練り歩いていた。
美しい女性とソバカス顔の少年を従えている。
全員無表情で牢の前を奥へと進んでいた。
案内をしていた奴隷商が後ろを振り返る。
「どうですか。お気に召した者はいましたか。」
身なりの良い老人を前に、笑顔を振りまいていた。
上客だと思ったのだろう。
陰惨な光景の中でも笑顔を崩さない。
「そうですな。体が欠損した奴隷も見せてもらえませんか。」
「はっ。はい。こちらです。」
地下牢最奥の、一番汚い牢へと老人を案内する。
中には生気を失った奴隷たちがひしめき合っていた。
老人は側にいた女性に小声で何かを話している。
しばらく話した後、老人は奴隷商に向かって言った。
「こちらの牢にいる奴隷全員でいくらですかな。」
「へっ。全員まとめて。」
「いくらになりますかな。『まとめて』というところをご一考していただけると有難いですがな。」
いくらかまけろと柔らかに言いながら老人は奴隷商の方を向く。
「全部で41。8000ゴールドで。」
「今後もお付き合いが続くと思っとりますがね。」
「でっでは、7500ゴールドで。」
「おや、この41人の方たちは他に引き取り手がいると。」
老人は笑顔を崩さない。
「お互いの良い落としどころが見つかると良いのですが。今後も関係が続くことを願って。」
老人が畳みかける。
しばらく唸っていた奴隷商は、腹から絞り出すように答えた。
「では。7000ゴールドで。これ以上は。」
老人は女性に目配せをした後に、奴隷商の方に向いた。
「良いです。良いです。では7000ゴールドで。すぐに手続きいたしましょう。」
奴隷商がカギを開けて奴隷たちを全員出すと、女性が奴隷紋に魔力を流し自分の奴隷へと描きかえていく。
「お代を頂く前にちょっと。」
「これは申し訳ない。これっ。」
「申し訳ございません。」
女性が深々と頭を下げた。
老人と奴隷商は応接室に戻ると契約書を2通作成し、互いに目を通しサインする。
その間、女性と少年が用意していた4台の馬車に買った奴隷たちを乗せていく。
ふと興味をそそられた奴隷商が尋ねた。
「それでお買い上げいただいた奴隷たちは、どのような用途で。」
老人はサインする手を止めて、鋭い目で奴隷商を睨む。
「こちらの店は客の詮索をするのが好みですかな。」
「いっいえ。申し訳ございません。今後もご贔屓に。」
奴隷商は深々と頭を下げ老人を見送ると、額の汗を拭った。
余計なことをした。
中には奴隷を死ぬまでいたぶる金持ちがいたりする。
今後は余計な詮索をすまいと奴隷商は応接室へと戻っていった。
奴隷たちを乗せた馬車はキッコーリ町へと進んでいく。
だが町の前まで来ると中に入らず大きく迂回して、かつてレイたちがくり抜いてタックたちの遊び場にしようとした岩山へと向かって行った。
何の変哲もない岩山だが、女性が魔力を流すとぽっかりと入り口が開く。
馬車のまま中に入り女性が入り口を塞ぐと、空間の中央にある巨大な魔法陣に魔力を流す。
光り輝く魔法陣に馬車ごと入ると、一瞬でどこかへと消え去っていった。




