98.ドインとミナ
ドインがロックウッドたちに貸し出していた部屋に入ってきた。
ミナを見つけると周りをウロウロしていたが、決心したように横にドカっと腰を下ろす。
ミナは慌ただしく出発の準備をしていて、父親の顔を見ようとしない。
ドインはわざとらしく咳をすると、ミナに声をかけた。
「ミナ。」
「何?」
「あのな。その。元気か。」
「うん。」
「無理してないか。」
「ない。」
「そうか。あのレイっていう優男になんかされたら、すぐ父ちゃんに言うんだぞ。」
「レイはそんなことしない。」
「そうか。でもなんかあったら。」
くわっと顔を般若のように歪ませたドインがミナを見る。
「父ちゃん。」
「何だ。どうした。」
「うるさい。」
あの魔族と互角に戦っていた大男がと思うほど、ドインは小さく丸まってしまった。
娘のことばにショックを受けたのか、ピクリとも動かない。
「父ちゃん。」
「うん。」
「あたし、後悔してないよ。」
「うん?」
「あの時と同じことが起こったら、同じことする。」
キッコーリ村に王都の門外で保護した人たちを連れてきたことだろう。
そのせいでロックウッドは咎人として手配されたし、ドインに捕まった3人は犯罪奴隷として強制労働させられたのだ。
「すまなかった。」
「気にしてない。それが父ちゃんの仕事だし。逃がしたら父ちゃんがどうにかなってたし。」
魔族と戦えるドインをどうにかできる程、王国に度胸は無い。
とドインは思っていたが娘はそう思っていないようだ。
「父ちゃん。」
「うん?」
「あたし、父ちゃんの子供で幸せだよ。」
言いたいことをいうと、準備が出来たミナは外へと飛び出していった。
ドインも慌てて追いかける。
外では既に準備を終えたレイたちがミナのことを待っていた。
「待たせてゴメン。行こう。」
ミナはトムの隣に陣取る。
「ドイン。慌ただしくてすまない。早く故郷に戻りたくて。」
レイがドインに声をかける。
「ああ。加勢ありがとな。あとそうだ。」
何かを思い出したドインが話を続ける。
「1週間後に王都で大領主の会合があるんだ。時間があったら、キッコーリ村だっけか、村に立ち寄るから。」
「ドインは直ぐ出発しなくて良いのか。」
「王都だったら2日で行けるからな。」
「ぶっ。」
ドインの要塞から王都まで、普通の商人なら2週間はかかる。
やはりドインは格が違う。
「また会おう。」
レイはドインと固い握手をすると、キッコーリ村のある東に向けて、慌ただしく旅立っていった。




