97.勇者の今
レイは微笑んだまま、ドインの方に振り向いて言った。
「今話題の召喚された勇者のことか。」
「あれが勇者か。それで王族の馬車に乗ってたのか。」
「王都から来たんだ。」
「そうだな。ローミもさじを投げてな。ペガルダンジョンの間引きに失敗したらしい。」
「ハイオークも倒せないのにペガルダンジョンとはな。」
「だろ。少しの間預かって鍛えてやってたんだが、サボるし全然強くなろうとしねえし、俺のところでは役に立たねえから王都に送り返してやった。せめてオーガ倒せるようになってから来てくれって。」
「そうか。いつ頃の話だ?」
「お前らが来る少し前に送り返したかな。」
レイは微笑んだままだ。
「ドイン、譲る奴隷の体を治したら直ぐに大部屋に行くよ。」
レイは足早に部屋から出ていった。
トムも急いで後から追いかけてくる。
「レイ。」
「トム、皆に直ぐ出発する準備をするように伝えてくれ。行き先はキッコーリ村だ。」
トムは何かを言いかけて止め、
「分かった。」
とだけ答えた。
レイは奴隷たちがいる部屋にズカズカと入り、ドインに譲る18人の奴隷の名前を呼んだ。
何が起こるのか分からない18人は、おずおずとレイに連れられて部屋を出ていく。
残されたトムは奴隷たちに出発の準備をするように指示する。
ロックウッドの面々やマール、鍛冶をしているスミスに声をかけ、急いで出発の準備を整える。
「大分急いでるね。何かあったのかい?」
不審に思ったマールがトムに声をかけた。
「レイさんが用事出来たって。キッコーリ村に向かう。」
詳しい話をせずに行き先だけを告げた。
「またどっか行くのん?」
フクンが首をかしげながら聞いてくる。
トムは微笑んでフクンを抱き上げて肩に乗せた。
「ごめんね。今度はゆっくりできると思う。マールさんと馬車に乗ってて。」
「分かったん。」
フクンはトムの肩から飛び降りると、タックとアレスと一緒にマールの側に座っている。
しばらくして険しい顔をしたレイが戻ってきた。
少し震えている。
18人全員ドインの奴隷に出来たらしい。
中には泣き叫ぶ者もいたが、何とか引き取ってもらったそうだ。
「用意出来たか。」
「あともう少しで。」
「早くしろ。ドインにも伝えてある。」
怒気の含んだ声で指示すると、レイは馬車の準備をするために足早に外へと出ていった。




