96.『黒い』奴隷の解放
魔族との戦いから5日経過した日の深夜、レイは要塞の屋上で星空を眺めていた。
戦いでは遠距離攻撃の部隊が陣取る屋上も、今はレイだけでとても静かである。
満点の星空を眺めていると、
「レイさん、ここにいたんすね。」
と後ろから声をかけられた。
レイが振り返るとトムが酒とグラスを2つ持って立っている。
「それ。」
「婆ちゃんから盗んできました。」
「また俺まで蹴られるだろ。」
「共犯です。諦めてください。」
トムはレイの横にドカっと座ると、豪快に酒をグラスに注ぎ始めた。
2人で乾杯して一気に酒をあおる。
「久しぶりだな。こうやって飲むの。」
「何か月ぶりですかね。」
「相変わらず美味い酒隠してんな、マールさん。」
「大体隠し場所分かってるんすけどね。」
「ぐふっ。」
酒を飲んでいたレイは思わず笑ってしまった。
それを見てトムもフッと笑う。
酒をゆっくりと飲みながらポツポツ他愛のない話をしていたが、突然トムが話題を変えた。
「何考えてたんすか。」
「何って。」
「回復魔法かけてる時。」
「ああ。俺の奴隷のこと。」
「うん。」
「何人か解放して、ドインの奴隷にしてもらおうかと。」
トムはしばらく黙っていたが、
「黒いって奴ですか。」
「そうだな。20人位いるからな。」
スキル『真実を見る目』で人の本質が見抜けるレイは、魂が『黒い』奴隷の処遇をどうするか悩んでいた。
犯罪奴隷だが冤罪で捕まり魂が白い奴もいれば、どす黒い魂の奴隷もいる。
限りなく黒に近い灰色の魂の奴隷もいた。
今は大人しくしているが自分に万が一のことがあった時、『黒い』魂の奴隷が解放されてしまったらと思うと、どこかのタイミングで信用できる誰かに託すことが出来ればと考えていた。
ドインは適任だと思う。
レイの奴隷のほとんどは戦うことが出来るため、ドインの役に立つだろう。
ドインと面と向かう機会を得た今、その話をする時だ。
「俺の奴隷18人をドインの奴隷にしてほしい。」
「ほう。」
ドインは顎に手を当てて、レイに話を続けるようにと促した。
「ドラゴンと戦える奴、戦えなくても鍛冶が出来る奴、色々役に立つと思う。」
「どうしてだ。」
「俺のところは犯罪奴隷が多くてな。どこかのタイミングで信用できる人に託したかった。」
「お荷物になんじゃねえだろうな。」
「大丈夫だ。保証する。戦えるし鍛冶が出来る奴もいる。スミス仕込みの奴だ。索敵出来る奴もいる。」
ペガルダンジョン攻略の時、唯一奴隷で索敵出来る者がいた。
その奴隷もドインに譲ろうと思っている。
「お前は良いのか。戦力落ちるだろ。」
「ロックとゴザもらったからな。」
「そうか。」
ドインはしばらく考えていたが、
「分かった。後でそいつら大部屋に連れてこい。強さどれくらいか見て判断して良いか。」
「助かる。」
レイはドインと握手を交わし、椅子から立ち上がった。
レイとトムは部屋から出て行こうとする。
ドインは背後からレイに声をかけた。
「そういやお前若いのに強いな。この前来た黒髪のガキ3人はハイオークも倒せないくらい弱かったぞ。」
トムはビクッとして横目でレイを見る。
レイは穏やかに微笑んでいた。




