94.チルの判断
朝、レイは外から聞こえる斬撃の音で目が覚めた。
監視窓から外を覗くと、ロックとゴザが朝早くから稽古をしている。
右腕が生えたゴザは右手に木剣を握り、ロック相手に剣を振るっていた。
キッコーリ村であったオーク戦の時以上にキレのある攻撃をしている。
身支度をしているとドインの部下から全員で大部屋に来るようにと言われた。
大部屋に入るとドインの部下や奴隷の他、ロックウッドの3人も揃っている。
空いている場所に座ると、遅れて稽古を終えたロックとゴザが入ってきた。
全員が揃っていることを確認すると、ドインが口を開く。
「ゴザ、腕見せてみろ。」
ゴザが服を脱いで腕を出すと、ゴザが念入りに生えてきた右腕を調べ始めた。
「すげえな。つなぎ目が無い。筋肉もついてんし、筋も痛んでない。」
「指も自由に動かせます。」
ゴザは腕を少し上げて指を動かして見せた。
「剣も握れるし、前と同じように攻撃も出来ます。」
「そうか。」
腕組みをしたドインがレイの方を向いた。
「まずは礼を言う。だが何やら分からん。説明しろ。」
「俺もよく分からんです。がタックとフクンが言うにはレベル100超えたからだと。」
「100超えると腕生やせんのか。」
「100超えると上位の回復魔法が使えるそうです。300年ぶりとか。」
「そうか。」
回復魔法を使うことが出来る魔術師の類は、戦いでは後方に位置するためレベル100に到達するのは至難の技だ。
だが剣も魔法も使えるレイは、魔族を2人倒したことによってレベル100を超え、使えるようになったようだ。
ドインが次の言葉を中々言わないため、キョロキョロしていたレイはチルと目が合った。
チルを見たとたん、レイの瞳が輝きだす。
レイの回復魔法を使えば、チルだけではなく他の奴隷たちの体も治せる。
目が合ったチルもレイが何を言いたいのか分かったようで、パアっと笑顔になった。
だが、直ぐに真顔になり叫んだ。
「レイさん、僕じゃないです。皆さんを。魔族と戦っている皆さんから先に。」
チルの叫びにレイはハッと気が付いて周りを見た。
ドインの部下や奴隷の中にはゴザ同様に、片腕の無い者や片目が潰れている者がいる。
再び魔族は襲ってくるだろう。
今回魔族3人であったりドラゴンであったり、今までとは違い襲撃が激しくなってきている。
今までは2か月に1回襲撃されていたが、次もそうとは限らない。
それまでに傷ついた者たちを回復せねばならない。
ドインの方を見ると、バツが悪そうな顔をしながらレイに言った。
「頼めるか。追加で報酬は出す。」
「はい。魔力ポーションの残りは。」
「かき集めるさ。」
その時からドインの配下たちの治療が始まった。
欠損した体が治ったことに、ある者は泣き、ある者は歓喜の雄たけびを上げ。
レイは1人1人丁寧に回復魔法をかけていった。
そして心の中であることを決断していた。




