93.奇跡
「痒い痒い痒い痒い痒いあああああ。」
のたうち回るゴザに辺りは騒然となる。
「レイ!何やった!」
ロックはレイを睨みつけた。
「回復魔法を。何で。」
レイの回復魔法を受けてゴザが突然苦しみだした。
何が起こっているのか分からず、レイはオロオロするばかりだ。
「ポーションを。」
駆け付けたサクソウがゴザに状態異常用のポーションを飲ませようとする。
「どうした。」
騒ぎを聞きつけてドインまでやってきた。
「俺は何も。どうしたら。」
狼狽えるレイの目の前で突然それは起こった。
グシャアという音がしてゴザの右肩から腕が生えた。
『えっ』
その場にいた全員が固まる。
「はっえっ。」
当の本人も自分に何が起こったのか分かっていない。
それからは祝いどころではなく大騒ぎになった。
「腕生えたああああ。」
「ゴザ、腕、ゴザ」。」
「異常ないですか。痛みとか。」
意味なく叫ぶ者、何を言っているのか分からない者、冷静にゴザの体を心配する者が口々に何かを叫んでいる。
サクソウがいち早くゴザに駆け寄り、生えてきた腕をつぶさにチェックしていた。
「手をグーパーしてみてください。」
サクソウに言われるままに手を動かしたり肩を回したりしている。
「特に異常ない。最初から付いてたみたいだ。」
次第に冷静になっていくゴザの体は特に異常は無いようだ。
「何やったんだお前。」
ドインがレイに掴みかかる。
「俺は、ゴザに、回復魔法かけただけです。」
ドインに揺さぶられてレイは答えたが、かけた本人も分かっていない。
「サクソウ何か分かるか。」
「分かりません。何ですこれ。」
ロックは尋ねるが、サクソウにも分からないようだ。
この場で分かる者は、とレイは辺りを見回す。
少し離れた所に、うるさいなとばかりにイカ耳になった猫2匹が肉を食べていた。
「タック、フクン、教えてくれ。」
おじいちゃんの知識を受け継いだ猫2匹にレイはすがった。
「うにゃあ。回復かけたからにゃ。」
「回復かけると腕生えるのか。」
「上位の回復魔法は欠けた所治るにゃ。」
「そうなのか。」
「そんなの聞いたことないです。」
ギルガ神聖国の学校で学んできたサクソウも知らないという。
「300年くらい前は、いたにゃりよ。」
「レベル100以上無いと出来ないの。」
フクンが言うにはレベル100以上で初めて使えるようになるらしい。
どうやら魔族2体を倒したレイは、レベルが100を超えたようだ。
レベル10以上になるとレベルは上がりづらくなり、100になるには魔族を倒すくらいの強さでならなければならない。なる前に寿命が尽きる人がほとんどだ。
レベル100以上の回復魔法の使い手が、約300年ぶりに出てきたことになる。
「とりあえず今日は解散だ。寝ろ。寝ろ。」
事態の収拾がつかないと判断したドインが、その場にいる全員に寝ろと指示を出す。
全員ゴザに起きた奇跡に興奮しながら、寝場所へと散っていった。
そして全く眠れないまま朝を迎えることとなった。




