16.意外な来客
キッコーリ村に来てから1か月ほど過ぎたある日、キッコンが2人の住むよろず屋を訪ねてきた。
普段背筋の凍るようなギャグを繰り出す彼だが、今日は神妙な顔をしながら2人を待っている。キッコンのただならぬ様子にレイは警戒したが、彼の後ろに立つ人物に驚いて声を出した。
「スミス。久しぶりだな。どうした。」
キッコンの後ろには王都にある武器屋の主人スミスが立っていた。
「よう。久しぶりだな。追い出されたと聞いてびっくりしたぞ。」
「濡れ衣だよ。」
「そんなこったと思ったよ。身ぐるみ剝がされたんだろ。ほらよ。出来たぞ。」
2人の前にトムの背丈以上の大きなカバンを置き、中からミスリル合金製の武器とレッドドラゴン製の防具を取り出した。
「ほがーーーー。」
レイとトムは声にならない歓声を上げる。もう取り戻せないとあきらめていた装備一式が目の前にあった。
「あの後大変だったんだぞ。」
スミスは腰に手を当てながら言った。
聞けば突然衛兵たちがスミスの店になだれ込んできて、2人の装備を出せと喚いたという。
隠し扉の中にあった武器と防具は見つからなかったが、スミスが連行されそうになった。
だが、衛兵が来た時点で商人ギルドへと走らせていた店番の少年が戻ってきて、連れてきた商人ギルドマスターの抗議により、捕まらなかったという。
「もう少し早く持ってきたかったんだがよ。見張られてて中々持ち出せなくてな。」
キッコンはスミスのことを知っており、2人がキッコーリ村にいることを知らせていたが、衛兵やガラの悪い冒険者に店を見張られていて、1か月ほど警戒していたという。
「ありがとうございました。本当に、本当に。」
レイとトムは何度も頭を下げた。
「いいってことよ。」
特に気にすることはないとスミスは言い、続けて、
「ちょっと、お願いがあるんだが。」
と急にかしこまった。
「何ですか。」
と聞くと、持っていた別の袋からガサゴソと何かを取り出した。
「この皮やらの半端もんもらっていいか。」
「俺たちの装備を修理したときに余った素材ですか。」
「そうだ。他にも使えるんじゃないかと思って。」
「どうぞ。もう、是非使ってください。」
「あんがとな。ありがたく使わせてもらうよ。」
「それと申し訳ないです。借りていた装備は衛兵に取られました。」
「そうか。まあ、商人ギルドを通して取り返すさ。」
スミスはニヤリと笑い、衛兵たちが2人に濡れ衣を着せてまで装備を手に入れたが、安物だと分かりがっかりしているのではないかと推測していた。
「安もんだと分かれば、すぐに返してくれんだろうよ。」
あくまでも楽観的で押しの強いスミスだった。




