91.決着とジャミの能力
ジャミの叫び声にハッとしたドインとロックが後ろに飛び退いた。
その瞬間、魔族の左手断面から黒い矢が2人目掛けて飛んでくる。
ギリギリでかわした2人は、立ち位置を入れ替わり、左右から攻撃を再開した。
ロックは黒い血に触れないよう、攻撃を加えてはすぐ下がる戦法に変えている。
ロックが左手首から闇魔法を出せないようにけん制し、ドインが魔族の右半身に槍を突き立てていく。
魔族は次の闇魔法を発動させようとしていたが、大けがをしているせいか戦いの疲れからか、ロックの攻撃をかわすことが出来ず、次第に動きが鈍くなっていく。
一瞬ドインが要塞に視線を移し、再び攻撃に戻った。
その様子を見ていたジャミは何かに気が付いた様子で振り返る。
「レイ、光魔法撃って。」
「目くらましのか。」
「そう。あそこらへんに。あの穴の上辺り。」
「分かった。」
要塞の外にレシーアと共に出て、同時に光魔法を放つ。
ジャミの指した場所でまばゆいばかりの光が辺りを一気に照らす。
魔族が絶叫し、右手に持っていた剣を落とした。
ドインに切られた左手首から黒い火が出ている。
痛みに耐えかねたのか、右手で左手首を押さえ動きが止まった。
ドインとロックはその勝利の瞬間を見逃さなかった。
ドインの槍が魔族の胸を突き、ロックの剣が魔族の首をはねる。
魔族の体はゆっくりと地に伏した。
要塞中から歓声が上がる中、レイとレシーアはドインたちの所に向かって駆けだした。
「血に触らないようにしろ。」
ドインの忠告に従って、おそるおそる魔族の死体に近づく。
首と左手首からはまだ黒い血が流れ出ていた。
「魔力ポーションあるか。」
「はい。火ですか。」
「頼む。思いっきり強くしねえと燃えんぞ。」
「はい。」
レイとレシーア2人がかりで魔族の死体に火を放った。
通常の魔物では一瞬で燃え尽きるくらいの高火力だが、魔族の死体はゆっくりと燃えていく。
死体から立ち上る煙を吸わないように、少し離れたところから燃やしていく。
周りでは倒したオーガやドラゴンの死体から素材を回収しようと、ドインの部下や奴隷が集まっていた。
「ねえ、ジャミ。」
「何すか師匠。」
「あんた戦い見えてたの。」
「うん。」
「やるじゃん。さすがあたしの弟子。」
ジャミの頭をわしゃわしゃしながらミナも素材を回収しようと要塞から出てきた。
ジャミはミナに褒められてまんざらでもなさそうだ。
2体の魔族の死体を焼き切り、最初にレイとトムが倒した魔族の死体を焼こうとレイたちが近づいた。
激しい戦いだったからか、魔族の死体が着けていた鎧はボロボロになっている。
いざ焼こうと死体に目をやったレイは、鎧の下からのぞく魔族の体にある傷跡に気が付いた。
心臓の下あたりに大きな真一文字の傷がある。
「どうした。魔力切れか。」
最後の魔族の死体の前で立ち止まったレイに、ドインが声をかけた。
「ドインさん、あれ。」
「さん付けは止めろ。ドインでいい。」
「魔族の心臓の辺りに大きな傷跡があります。」
「お前さんがつけたんじゃなく。」
「古い傷のようですね。」
「気にするな。前に誰かと戦ってついたんだろ。」
特に気にすることは無いと言われ、レイは最後の魔族の死体を焼いていく。
死者32名を出しながら、魔族3体・ドラゴンとワイバーン50匹・オーガ100体を倒してレイたちは勝利した。




