90.ドインとロック
2人目の魔族を倒しても5人は喜ぶことはしなかった。
「ロック。」
レイは腰に付けていた魔法袋からポーションを取り出し、ロックに投げる。
ロックは一気に飲み干すと、剣についた血を拭ってドインの方に駆けていった。
残る4人は後ろ髪を引かれる思いで要塞へと戻る。
自分たちも加勢したいが完全に力不足だ。
今ドインと戦っている魔族のスピードに全くついていけない。
ただの足手まといになるだろう。
ドインとロックだけがそのスピードに対応できるのであれば、残った者たちは戦いの行方を見守るしかない。
要塞に戻るとレシーアとサクソウとジャミが監視窓から戦いの様子を見守っていた。
「全然見えないわね。」
甲高い金属音が聞こえるだけで、全く姿が見えない。
「皆さん、お疲れさまでした。」
サクソウが4人に回復魔法をかけていく。
既に1時間以上ドインは魔族と戦っている。
ドインも魔族も疲れているはずだが、わずかにでも攻撃が乱れるとその時点で勝負は決する。
ロックも参戦して、ドインたちの戦いが安定したようだ。
2人が左右から魔族に攻撃を加えていく。
魔族は両手に剣を持ち、攻撃に防御に剣を振るっている。
ロックは籠手で攻撃を防ぎながら手数を増やすため小さい動作で攻撃していた。
「もう少し俺が強かったら。」
外から聞こえてくる金属音を聞きながら、レイは呟いた。
サボっていたわけでは無い。
その時その時で全力を尽くしていたつもりだ。
だが。
キッコーリ村でのオーク戦の時もそうだった。
誰かが犠牲になってから、強敵を目の前にして無力を感じてから、後悔する。
ライバ領でのオーガ戦とペガルダンジョンの攻略で気が緩んでいたのかもしれない。
レイは戦いから目をそらすと、トムと目が合った。
トムも同じようなことを考えていたのか、目を伏せてしまった。
「お前ら、準備しとけ。」
後ろからドインの部下に声をかけられる。
「万が一のことがあったら、後はお前たちしかいない。」
レイとトム、ロックウッドの面々は、無言で各々装備の点検をしていく。
ドインとロックが倒れたら、6人でどうにかするしかない。
外からは相変わらず金属音だけが聞こえてくる。
ドインとロックの息が合ってきたのか、徐々に魔族に攻撃が当たり始めていた。
2人は重い一撃を食らわせるよりも、少しずつダメージを与える戦略に切り替えたようだ。
ドインは滑らかな動きで槍を突き刺していく。
攻撃を防げず、魔族の体には槍と剣による傷が増えていった。
2人の仲間が倒されて余裕が無くなったのか、魔族の攻撃は荒くなっており、ドインとロックは余裕でかわしていた。
ドインの槍が魔族の左手首を切り上げる。
「ウッ。」
短い悲鳴と共に魔族が剣を落とした。
見ると左手が無く、切り口からボトボトと黒い血が滴り落ちていた。
それを好機とみてドインとロックはさらに激しい攻撃を加えていく。
その様子を要塞から恐々と見ていたジャミが突然叫んだ。
「下がって!危ない!」




