88.3人の魔族
「3人って。」
戦況を見守っていたトムが絶句する。
魔族が3人に増えた。
悠長に観戦しているわけにもいかず、ドインの部下に急かされて、レイたちは要塞から飛び出した。
レイとトム、ロックとゴザに分かれて後から現れた2人の魔族に突進していく。
ドインで互角なのに自分たちが戦えるのかと、不安がレイの頭をよぎる。
突進の勢いのまま剣を抜いたレイは、ハッと息をのむと顔の前で剣を払った。
気が付くと相手の剣が目の前にあった。
幅の広い剣で力はレイと拮抗している。
「トム、行くぞ。」
「おう。」
レイが相手の剣を抑えている間に、トムが魔族の横腹めがけてハルバードを薙ぎ払う。
キンと甲高い金属音がして、見ると魔族は短剣を抜きハルバードの威力を受け止めていた。
だが、片手ずつで相手の攻撃を防いでいるからか、少しずつレイたちの力に押し負けていく。
レイは魔族の剣を上へと押し上げると、一気に力を緩めて相手の懐に剣突する。
大したダメージは入らなかったが、相手の動きが止まった瞬間トムが腰をひねり、小さい動作で魔族の腰を切りつける。
肉を切り裂く感触が伝わり、魔族はたまらずレイたちから距離を取った。
体勢を整えようとする魔族に反撃させまいと、レイとトムは距離を詰める。
「おりゃああああ。」
トムがハルバードを魔族に振り下ろそうとすると同時に、レイは大きく横に逸れ傷ついたわき腹に剣を払う。
「ぐっ。」
短い悲鳴が上がり、魔族の横腹から黒い血が噴き出した。
レイがトドメを刺そうとした瞬間、何者かに背後から体当たりされる。
ふらついたレイの背後から、
「ヒール。」
という声が聞こえてきた。
せっかく傷つけた魔族のわき腹がみるみると回復していく。
ドインと戦っていた魔族がドインと距離を取り、たまらず加勢に来たようだ。
だが、
「おら。気ぃ取られてる場合か。」
レイに更に攻撃しようとする魔族の背後からドインが襲い掛かる。
レイと魔族の間に入り込んだドインは、再び交戦を始めた。
「距離取れ、レイ。」
ドインの短い指示に、脇腹の傷が回復しトムと対峙していた魔族をレイは弾き飛ばした。
少しでもドインたちから距離を取るためだ。
「レイ、行けるぞ。」
「おう。」
2人で左右から同時に攻撃を開始する。
トムはハルバードを大きく振りかぶることなく、小さな動きで少しずつダメージを与えていた。
「うっとおしい。」
イライラした魔族が剣で思い切りハルバードを弾きトムが後退した時、わずかに隙が生まれたことをレイは見逃さなかった。
剣で再び横腹を一文字に切る。
魔族が剣でレイを切りつけようとしたところで、無防備になった首めがけてトムが短剣を投げつけた。
距離を取っていたトムが投剣するとは思わなかった魔族の首に、短剣が深く突き刺さる。
一瞬怯んだ魔族の背後に回り込み、レイは短剣に思い切り魔力を込めた。
「ぐぎゃあああああ。」
体の中から強力な火魔法をくらった魔族は、絶叫しながら絶命した。
「よくも…。よくもおおおお!」
遠くから憤怒の叫び声が聞こえたと同時にレイの目の前に赤い目があった。
思わずレイはのけぞる。
耳の横で斬撃の音が聞こえ、横目で見ると細身の剣が自分の顔わずか数センチの所にあった。
だが槍先がそれを防ぎ、切り裂かれる寸前で命が助かったことが分かる。
「だから、よそ見すんなっつたろ。」
槍先が剣を弾き、腰をひねって後ろを見た魔族めがけて無数の槍先が繰りだされる。
「おりゃおりゃおりゃおりゃ。」
高速で繰り出される槍を上手くよけながら、レイを襲うことを諦めた魔族はドインに対峙した。
レイは脇目もふらずに走り出し、トムの元へと行く。
「ロックのとこ行こう。」
先ほどの魔族には勝てないと判断したレイは、ロックたちの加勢に行くことにした。




