84.ディアクス山
レイたちは要塞の中で過ごし、準備を進める。
ドインから武器も防具も不足していると言われ、レイたちは持っていた素材全部を使って、装備を作っていく。
「ドラゴン素材がこんなにあるとはな。」
スミスと奴隷たちが鍛冶をする横でドインが感心していた。
ペガルダンジョンでドラゴン狩りを続けたおかげで、ドラゴンの皮がたくさんある。
ミスリルも合金用の素材も豊富にあるため、ロックとゴザのボロボロだった装備も新調した。
ドインの部下や奴隷たちの装備も修理、新調していく。
「作るの早いが大丈夫なのか。」
ドインは鍛冶のあまりのスピードに不安を抱いたようだ。
「スミスは一流の職人です。一流の装備をいつも作ってくれてますよ。」
レイがスミスの腕を保証する。
一方でマールを中心にポーション作りが行われていた。
ドイン領ではポーションの類も常に不足しており、素材を惜しみなく使ってポーションを作っていく。
「売れば金になんのにねえ。」
マールがもったいないとばかりに首を振った。
「死んだら何にもなんないからねえ。仕方ないかねえ。」
自分を説得するようにマールがブツブツと独り言を言っている。
全員で準備を進め3日ほど経った昼過ぎ、レイとトムはドインに突然呼ばれた。
ドインは望遠鏡で一点を見つめている。
「来たか。これであの山の頂上見てみろ。」
ドインが望遠鏡をレイに手渡す。
ディアクス山と呼ばれるその山には、黒い雲がかかっていた。
「黒くなってるのが分かるか。」
「ああ。」
「あれが魔族たちが来るのを教えてくれる。」
「山の向こう側で何かやってるってことか。」
「だろうな。準備しろ。」
ドインは側にいた部下に指示し、レイも含めて全員が戦闘の準備に入る。
「おりたちも行くの?」
タックが尋ねてきた。
レイはタックの頭を優しく撫でながら、
「行かなくて良いよ。マールさんたちを守っててくれ。」
「うん。分かった。」
タックとフクンが頷く。
「くうん。」
アレスが頭をこすりつけてくる。
「アレスも行かなくて良いよ。」
「ガウ。」
アレスは鋭い目でレイを見つめていた。
どうやら戦闘に参加したいらしい。
「犬は戦い好きね。」
「前の奴もそうだったにゃ。」
1000年前のフェンリルも好戦的だったらしい。
タックとフクンが呆れている。
アレスは1000年前の奴と似たような性格にならないで欲しいとレイは思っていた。
レイはトム・アレスと共に配置につく。
既にオーガたちが前進している振動と音が、要塞にまで伝わっていた。
レイたちの隣にはドインとロックウッドの面々がおり、レシーアが望遠鏡で前方を見つめていた。
「レシーア、レイに望遠鏡渡せ。」
ロックに言われ、青ざめた顔のレシーアがレイに望遠鏡を手渡した。
レイは望遠鏡を覗きこみ、レシーアが見ていた方向に焦点を合わせる。
「見えるか、あれが魔族だ。」
ドインが指さすオーガたちのはるか後方、その場所には青黒い肌の男が立っていた。




