15.本に囲まれた暮らし
レイとトムは飯代のツケを払い毎日木を切り出す仕事をしながら、コツコツとお金を貯めていった。
トムの祖母マール曰く、ある程度の金が貯まったら、2人に合う武器と防具を仕入れるという。レイとトムにとっては、金を貯めることが唯一の生きがいのようになっていた。
朝から雨が降りしきる日は木こりの仕事が休みになる。店番の仕事を代わろうとレイはマールに申し出たが、私の仕事を取るんじゃないと言われ、手持ち無沙汰になってしまった。
マールはカウンターで頬杖をつきながら、
「暇だねえ。雨の日は客も来ないし。」
「そうですね。暇です。」
食事も掃除も終えて、本当に暇そうにレイは言う。
「うちのバカ孫はどうしたさね。」
「寝てます。」
「全くもう。」
1時間もあれば全体を見てまわれるような小さな村では、本当にやることが無い。
トムのように体を休める方が良いことは分かっていたが、さすがに寝てはいられず、店の隅でレイはぼーっとしていた。
「そうだ。本でも読むかい。」
「本があるんですか。」
「うちの死んだ爺さんと息子が集めててね。読めるんだったら貸すよ。」
「ありがとうございます。読んでみたいです。」
召喚されたその日から、問題なく文字を読むことも書くことも出来たため、読んでみたいとレイは言う。
じゃあついて来いと言うマールの後に続き、店の奥にある居住スペースに入っていく。左手にレイとトムの部屋があり、正面に台所と風呂場がある。右手に進んでいくと、マールの部屋の隣に重たそうな扉の付いた部屋があった。
部屋の扉を開けると、天井まである本棚にびっしりと本が置かれていた。
レイは目を輝かせながら部屋を見渡し、近くにある本を手に取った。
パラパラとめくってみると、杖の絵が描かれており文字が細かく書かれている。
「これは。」
「魔法の本だね。爺さんも息子も使えないのに魔法に憧れて。使えるようになるんじゃないかと集めてたんだ。魔法陣の本もあるし薬草やらの本もあるよ。」
「魔法使えない人もいるんですか。」
「誰でも使えるわけじゃない。剣士や斥候は使えないよ。当然木こりも使えない。使えるのは僧侶とか魔法使いとか魔術師しかいないね。」
「使えないのか。」
明らかに落ち込んだレイを見てマールが慌てて言った。
「まっまあ。聞いた話だと昔のことだけど魔法剣士とか聖騎士とか剣技も魔法も使える職業があったらしくってね。勉強すればなれるかもしれんよ。」
「本当ですか。」
再び目を輝かせながらレイが言った。
その日からレイの日課が木こりと読書になった。




