81.ドイン領
ローミの町を出発してから2週間弱でドイン領の中心部に入る。
ドイン領は他の領と異なり、領都が無い。
シュミム王国の南西に位置し、山脈を隔てて魔族領と接している。
雲を貫くほど高い山々がそびえ立ち魔族からの襲撃を阻んでいるが、1か所標高の低い山があり、そこから魔族が幾度となく攻撃を仕掛けている。
そのような事情もあってか領都が無く、魔族を迎え撃つように大きな要塞が作られている。襲撃に使われる山を高い防壁が取り囲み、いくつかの小さな要塞が置かれている。
離れたところに村や町が点在しているが、要塞に供給する食物の栽培や旅人のためにあるようなものだ。
旅人といってもほとんどの商人はドイン領を避けて移動している。訪れるのは要塞で一旗揚げようとする冒険者や、武器商人くらいのものである。
レイたちは王都の北西にあるローミ領からドイン領に入り、しばらくすると右手に高い防壁が見えてきた。
キッコーリ村の防壁やライバの町に築かれたものよりも、はるかに高く頑丈である。
作るのにどれだけの時間と労力がかかったのだろうかとレイは考えていた。
「魔族の襲撃は多いのか。」
隣を走るレシーアに聞く。
「そんなに。年に2・3回だけよ。でも犠牲が多くって。戦える犯罪奴隷は、必ずここに連れて来られるわね。」
戦える犯罪奴隷として、ロックとゴザもここに連行されたらしい。
「で、ミナの故郷でもあるのよ。」
「ミナ、ここの出身か。」
「レイは驚くかもね。」
何故かレシーアは微笑んでいる。
自分は何に驚くのだろうと思いながら、軽快にロックたちのいる要塞に向かって走る。
ライバからの情報によると、ロックたちは魔族を迎え撃つために作られた一番大きな要塞にいるらしい。
そこには大領主であるドインもいるはずだ。
しばらく走っていると大きな岩山が見えてきた。
その山にはポツポツと穴が開いている。
特徴的な山だと思って見ていると、突然穴から人が飛び出してきた。
「止まれ!」
穴から出てきた男は一番前を走るトムに剣を突き付ける。
トムは戦う意思の無いことを示すように両手を上げ、バカでかい声で言った。
「ロックさんと、ゴザさんに用あります。ライバ様からドイン様に話いってるかと思います。」
「確認する。」
剣を突き付けた男はそう叫んだが、剣を収めることはしないようだ。
しばらくにらみ合いが続いた後、別の穴からキングオークのような大男が出てきた。
ダークブランの髪を短く刈り込んだ、40前くらいの男だ。
むき出しの腕や足には無数の傷がついている。
「おおお、体が痛ぇ。」
腰をさすりながらヨタヨタと歩いてくる。
「父ちゃん!」
トムと一緒に先頭にいたミナが叫ぶ。
『父ちゃん?』
レイとトムが同時に呟いた。
ミナは父ちゃんこと大男の隣に駆け寄ると、レイとトムを見て言った。
「紹介するね。あたしの父ちゃん。ドインです。」




