80.ダンジョンの異変
レイたちがローミの町を出発してドイン領に入った頃、ローミは手元に戻ってきた宝物にうっとりしていた。
大きなピンクダイヤの他に宝玉がちりばめられた杖・マント・王冠が手に入った。
まるで王にでもなった気分だ。
キングウルフの毛皮が手に入らなかったが、レイたちのおかげでそれ以上の宝が自分の物になった。
うっとりお宝を眺めていると、衛兵の1人が慌てて執務室に入ってくる。
「なんだ。」
せっかくの時間を邪魔され、少し苛つく。
「もっ申し訳ございません。ペガルダンジョンのことで。」
「なんだ。早く言え。」
「まだ魔物が出ず、戻らないんです。休眠状態のままです。」
たしか以前ドインたちが攻略したときは、1週間ほどで戻ったはずだ。
1週間以上経ってもまだ休眠期間なのは異常といえる。
だが…とローミは考えていた。ペガルダンジョンは強い魔物が出る割には得られる素材の種類が少なく、人気が無い。宝箱も少ない。
魔物があふれ出ないようにするため、Aランク冒険者を雇い間引きをしていたほどだ。
冒険者たちに人気のシニフォダンジョンは、異常も無く今日もごった返している。
「良い。下がれ。」
「でも。」
「聞いてなかったのか。下がれ。ペガルダンジョンがどうなろうと知ったことではない。」
ローミの意識は既にお宝の方に向かっていた。
その頃、大量の肉をゲットしてホクホクのレイは、休憩中サクソウにダンジョンコアのことを聞いていた。
「珍しいですね。私も本で読んだことありますが、見たのは初めてです。」
レイの持っているダンジョンコアをじっくりと眺めている。
「何か知ってるか?」
「少しは。ダンジョン最下層のどこかに埋められていて、ダンジョンの動力となっているようです。」
「動力。」
「魔物をリスポーンさせたり、宝箱を出したり、罠を設置したりです。でもそれ以上は知りません。」
ギルガ神聖国の大図書館で、ダンジョンの本を読んだときに書かれていたらしい。
だが、それ以上のことは詳しく書かれていなかったそうだ。
レイは側でくつろいでいるタックとフクンを見る。
2匹も肉を大量にゲットしたからか、とても満足そうだ。
「なあ、タック、フクン。ダンジョンコアって知ってる?」
レイの問いに、タックはフッとニヒルな笑いを浮かべる。
「知ってるにゃよ。」
「どんな?」
「ダンジョン作れるにゃ。」
「作れんの?」
レイはサクソウと共に驚く。
ダンジョンコアでダンジョンを作れるとは思いもしなかった。
「まず、横穴掘るん。」
フクンがヒゲを撫でながら解説する。
「ダンジョンコア埋めるの。」
「ふんふん。」
「ダンジョンコアの隣に、やっつけたい魔物の魔石を埋める。」
「うん。」
「完成にゃ。」
「かなり簡単だな。」
レイはサクソウと共に再び驚く。
ダンジョンがそんな簡単に作れるとは。
レイはダンジョンについてしばらく考えを巡らす。
どこかに落ち着いて拠点を作ったら、ダンジョンを作ろうか。
素材も集められるし、レベルも上げられる。
幸いなことに手元にはダンジョンコアが2つある。
「そんでね。」
フクンは前足でレイをちょんちょんする。
「ダンジョンコア取るとダンジョン死ぬにゃ。」
「死ぬ。」
「マズいですよ。ペガルダンジョンの。」
今まで静かに聞いていたトムが口を挟んだ。
レイはペガルダンジョンのダンジョンコアを抜いてしまった。
ペガルダンジョンは死に、ただの穴ぐらとなっているに違いない。
「どうする。引き返して返すか。」
レイは落ち着かないのか耳をしきりに触っている。
「何言っとるね。返しなんかしたらローミに何されるか分かったもんじゃない。」
トムの隣で聞いていたマールが諫める。
友好的に別れたのであれば返しに行くのも良いのだが、だまし討ちされそうになった後では返しに行くには非常にリスクがある。
「意地悪して取ったわけじゃないから、しばらく持っとけ。」
「そうした方が良いか。」
マールの勧めに従い、レイはしばらく持っていることにした。
何かでローミの町に行ったときに、コッソリ返そうと思った。




