79.肉ダンジョン
「ここか。」
「うん。このダンジョンの中にいるかもしれない。」
レイとミナが目の前にあるダンジョンに、入るかどうか話している。
その後ろでジャミは大の字になって倒れていた。
「うっ動けんです。」
事切れそうな声を出しているが、まだまだジャミは元気そうだ。
「入りましょう。」
レイと同じく余裕のない顔のトムが急かす。
「だけど野良ダンジョンよ。」
「3匹の安全が先です。」
レシーアが止めるが、トムは入ろうと既に準備を始めている。
野良ダンジョンは人の手で管理されていない、自然発生したダンジョンだ。
中がどうなっているのか、どんな魔物が出てくるのか一切分からない。
そのために、ローミの町などにある管理されたダンジョンよりも危険度が跳ね上がると言われている。
「俺とトム、レシーアとミナ、ジャミが先頭で行く。皆は後から付いてきてくれ。」
「何で俺も。」
「何かあったときに3匹連れて皆で逃げてくれ。」
悲壮な顔でレイはジャミを説得する。
「スミス、奴隷たちを頼む。」
「任せろ。」
スミスも覚悟した顔で頷いた。
武器を構え全員でダンジョンの中に入っていく。
「わっ、気持ちいい。」
「牧場のようですわね。」
中の気持ちよさに、レシーアとミナが思わず感嘆した。
ペガルダンジョン最下層のように青い空と草原が広がっているが、ダンジョン自体が小さいのか、遠くの方にダンジョンの端が見えている。
のどかな光景の中、ユジュカウがのんびりと草を食んでいた。
だがのどかな光景とは裏腹に、奥からユジュカウの悲鳴と猫と狼の楽しそうな声が聞こえてくる。
「にくうううう。」
「うにゃあああ、焼いて食べるにゃあああ。」
「わふーーーーん。」
逃げ惑うユジュカウを猫2匹と狼1匹が追いかけまわしている。
既に相当数を倒したのか、返り血で3匹ともびしょ濡れだ。
アレスに至っては白銀の毛が赤黒く染まっているのが遠くからでも分かる。
「タック様。」
「フクンちゃん、何で。」
「アレスちゃーん。」
凄惨な光景に奴隷たちがショックで立ち尽くしていた。
実は3匹は奴隷たちの間で相当の人気があり、ひそかにファンクラブが出来ていたほどだ。
立ち尽くす奴隷たちとは反対に、レイは目をランランと輝かせている。
「ミナ、ジャミ、罠あるか。」
「なっなさそうだけど。」
「そうか。」
輝く顔で振り返ったレイに、奴隷たちはビクっとする。
「皆、狩るぞ。肉と魔石は魔法袋にしまってね。」
「やれやれ、わたしゃここで休んどるよ。」
恐る恐るついてきたマールは、入口近くの草むらに腰を下ろした。
リザードホーズと共に休むようだ。
そこからの出来事は奴隷たちの心に深く刻まれ、後に彼らが口にすることは無かった。
ボスも含めてすべてのユジュカウを倒し、大量の肉と魔石を手に入れたレイたちはダンジョンの中で一晩を過ごす。
翌日レイはダンジョンコアを抜き取り、がらんどうになった洞窟を完全に塞いだ後、何事も無かったかのようにドイン領へと向かった。
この後レイと3匹以外は、1週間ほど肉を食べられなかった。




