76.懲罰
レイたちがペガルダンジョン攻略を進めているころ、王都ではある事態が起きていた。
「お慈悲を!何卒お慈悲を!」
騎士の男が頭を床にこすりつけるように土下座しながら懇願している。
片足が無くなった金髪の女性が王の前に引き立てられ、無理やり跪かされている。
女の名はハリナ、王国騎士団の副騎士団長だった。
部下だった男の懇願もむなしく、今から懲罰が下されようとしていた。
大臣が手元の文書を読み上げる。
「元王国副騎士団長、ハリナ。ライバ領におけるオーガ討伐の失敗。7名の死者を出し、勇者3人の命を危険にさらした罪は重い。」
大臣が何かを読み上げている中、ハリナの意識は朦朧としていた。
オーガ討伐から敗走したときの記憶が何度も蘇る。
「ハリナ様!早く逃げて…。」
自分を助けようとした部下が盾になって、オーガたちに踏みつぶされていく。
右足を踏みつぶされ、残された命もあとほんの少しというところで、部下の一人が決死の攻撃を仕掛け、別の部下が自分をおぶさって全力で駆けだした。
そのおかげで命がかろうじて繋がったのだ。
足を失った痛みで意識が遠のく中、部下たちの怒号と悲鳴が聞こえてくる。
勇者たちは我先にと逃げ出し、既に姿は見えなかった。
その後、途中で冒険者の助けも借りて町にたどり着き、ライバの屋敷で手厚い治療を受け今に至る。
大臣は最後の文を読み上げ、ハリナに対する懲罰を叩きつけた。
「ハリナは副団長の職を解き、王都から追放とする。」
「そんな、団長だってオークに…。」
ハリナの部下だった男が抗議の声を上げるが、騎士団長にひと睨みされて黙ってしまった。
事の経緯を離れたところで見ていた勇者3人は、小声で何かを話していたかと思うと急にニヤニヤしだす。
勇者の内の1人、リーダー格である剣士ロミオが大臣の元へと歩いてきた。
「何用か。」
大臣がロミオを一瞥する。
まるで早く出て行けと言っているような軽蔑の眼差しだ。
ロミオは王の前に跪くと、ある提案をする。
「恐れながら一言。今回の件は俺たちの力不足も原因です。」
うつむいてはいるが、王たちに見えないようにしたその顔は半笑いだ。
「副団長の職を解くのは、今の彼女には仕方ないと思います。でも王都から出すのはヒドイです。」
「それではどうせよと言うのだ。」
用件を言えと大臣が急かす。
「俺たちで彼女の面倒を見ます。手厚く。それが罪滅ぼしかと。」
大臣は顎に手を当てて考えていたが、面倒くさくなったのか騎士団長の方を見た。
騎士団長は興味無さそうに爪をイジっていたが、ボソリと大臣に言う。
「良いと思いますよ。王都の外で話を広げられたら困りますから。」
「そうか。」
大臣は勇者たちの方を振り返っていった。
「では、お三方で手厚い看護を。あとでポーションなど準備させて持って行かせる。」
言いたいことをいうと、王と大臣は足早に王の間から出ていった。
騎士団長も千鳥足で出ていく途中で、まだ何か言いたそうなハリナの元部下を蹴り上げ、部屋から追い出した。
勇者3人はハリナを抱きかかえると、半笑いで自分たちが住む離れへと急ぐ。
「それではお姫様。俺たちと一緒に遊びましょう。」
意識が朦朧としてろくに抵抗も出来ないハリナに話しかけていた。




