74.裏切り
最下層の奥にあった転移の魔方陣から外に出ると、すぐ外で待ち構えていた衛兵に声をかけ、ダンジョンをクリアしたことを伝えた。
衛兵は慌ててどこかに行くが、それを待つことなくマールのいる拠点へと戻る。
「お帰り。やったんだね。」
レイたちの表情を見てペガルダンジョンを攻略したことが分かったのか、マールは嬉しそうだ。
「ちょっと休んでてくれ。準備するから。」
トムから宝の入った魔法袋を受け取ると、マールは拠点の中央に作られた小部屋へと入っていった。
レイたちは体力を回復するべく、用意されていたご飯を食べ少し休んでいた。
程なくしてローミの使者が拠点を訪れ、直ぐに屋敷に来るように言う。
「待っててくれ。婆さんがまだ支度をしてるんだ。」
スミスが急かす使者を外でいなしている。
30分ほど経っただろうか、マールが小部屋から出てきた。
「待たせたね。じゃ、行こうか。」
ローミの屋敷に向かうと言う。
自分も行こうとするトムに対して、
「トムは残ってくれ。私とレイとスミス、レシーアとミナで行くよ。」
「大丈夫?婆ちゃん。」
トムは心配そうだ。
「大丈夫さね。犬っころと猫っころ連れて待ってな。」
マールはレイたちを連れ立って使者と共にローミの屋敷へと向かう。
以前は面会するまで3日を要したが、今度はすぐに謁見の部屋へと通される。
レイとマールが椅子に座り3人が床に座ると、奥の扉から颯爽とローミが出てきた。
ローミは初対面のレイに歩み寄り、にこやかに手を差し出した。
「初めまして。レイさん。」
「初めまして。」
レイも立ち上がりとびきりの笑顔で手を握り返した。
弱々しく握り返したレイの手を一瞥すると、ローミは向かい合うように椅子に座った。
一度立ち上がったレイたちも座りなおす。
「素晴らしいですね。こんなに早くペガルダンジョンを攻略するとは。」
両手を組み笑顔を崩さないローミはレイたちを絶賛する。
「早くサクソウ出しな。こっちもお宝出すよ。」
レイがローミと話を続けるのは危険と判断したマールは、話を進めるようにとローミを急かす。
「お待ち下さい。もうそろそろ来ますよ。それよりも報酬を見たいですね。」
早くお宝を出せとローミが催促する。
マールは無表情でトムから受け取った魔法袋に手を突っ込み、大きなピンクダイヤを取り出した。
曇りなく光り輝くそれに、ローミの目はくぎ付けになる。
ピンクダイヤは戦いでは何の役にも立たないが、王侯貴族の女性たちに大変人気の宝石だ。
王都では数百万ゴールドで取引される。
「他にもあるよ。」
大きな宝玉の付いた杖と白銀のマント、黄金色に輝く王冠を取り出し、ローミの目の前に置いた。
宝石以上にローミの目がギラギラと輝いている。
「じゃ、サクソウ見せておくれ。交換だよ。」
マールの言葉を嘲笑うかのように、笑顔のローミは鼻をならした。
鼻をならしたローミをマールは睨みつける。
「その態度は何だい。要らないのかい。」
「そういうわけでは無いですがね。」
ローミが手元のボタンを押すと、2か所ある扉から衛兵たちがなだれ込んできた。
全員武器を抜き、後方には魔法の発動準備を整えた衛兵が控えている。
「裏切ろうってかい。」
殺気立つ衛兵たちを一瞥してマールは言う。
「当たり前だろ。敵は弱っているうちに叩かないとね。」
「私ら敵じゃないんだけどね。」
ブラックドラゴンを倒すほどの強さを持つレイたちだが、戦いで弱っている今なら勝てると思ったらしい。
「あと外の汚ねえ建物も今から取り壊す予定だよ。」
指輪をゴテゴテと付けた手を組みなおし、笑顔のローミは言う。
どうやら拠点も今襲われているらしい。
やれやれといった様子でマールは首を振り、懐から何かを取り出す。
「聞いてたかい、ライバ。」
「ええ聞いてましたよ。しっかりと。」
マールの手には通信の魔道具が握られており、その向こうからライバが元気に返事をした。




