72.勝利の後
どのくらい時間が経ったのだろうか、レイは全身がひどく痛むのを感じていた。
周りがひどく騒がしい。目を開けようとしたが、まぶたが接着されているような感じで開けられない。
「口の隙間から流し込め!」
レイの口の隙間から、何かの液体が流し込まれる。
全身にも液体がかけられ、ブクブクと泡立っている。
「死ぬんじゃねえぞ。」
聞きなれた野太い声が聞こえる。
「ちょっとジャミ!出しなさい!持ってるんでしょ。」
「ぎゃあああ、鬼師匠。」
「お腹空いたにゃあ。」
「お肉焼きますよ。どうぞ。」
「わふん。」
「食べるう。」
「ごめんなさい。魔力尽きそう。」
「休んどけ。お前たちもダメージ受けたんだ。」
「ほら!こんなに溜め込んで!」
「止めて!必死に集めたの!師匠~。」
色々な会話が聞こえてくる中で、「ヒール。」と再び聞きなれた声が回復魔法を唱えた。
レイの体から痛みが少しずつ抜けていく。
目の痛みが軽くなりわずかに開くと、トムが顔を覗き込んできた。
「レイさん!」
その大きな声で、一斉に皆が集まる。
「大丈夫、レイ。」
レシーアが心配そうに顔を覗き込む。
レイはわずかに上体を起こして周りを見回した。
「勝ったのか。」
「もちろん!」
ミナが元気に答えた。手にはポーションの瓶をたくさん抱えている。
ジャミが隠していたものだろう。
ミナは笑顔だったが、顔は赤く腫れあがっていた。
見るとトムの腕も赤くまだらになっている。
「心配ないですよ。こんなもん。」
レイの視線に気が付いたのか、トムが答えた。
聞けばレイがブラックドラゴンの喉元に剣を突き刺した後、トムとミナがドラゴンの懐に飛び込んでトドメを刺したらしい。
ブラックドラゴンの血を浴びたため、2人の皮膚も焼けただれたが、今は魔法とポーションで回復している。
下敷きになりそうなレイを急いで2人で引きずり出し、治療を続けて今に至る。
最下層入り口から戦いを見守っていたスミスと奴隷たちも駆け付け、魔力が尽きるまで全員でレイの治療をしていた。
レシーアの魔力が底をつき、ほとんどのポーションを使った後、レイがやっと意識を取り戻したところだった。
立ち上がろうとしたレイをスミスが押しとどめる。
「やめとけ。傷は治っちゃいるが体力がまだだ。寝てろ。ボス倒したからここは安全だ。」
突き抜けるような青い空の下、レイはブラックドラゴンが鎮座していた場所を見る。
そこには見たことも無いくらい大きな宝箱があった。
「気になるでしょ。気になるよね。」
ジャミがレイの顔を覗き込む。
「開けたのか。」
「まだ開けるなって。開けたいよね。」
「お前が言うな。レイが開けるべきだろ。」
スミスがジャミをひと睨みする。
「開けてくれ。」
「いいのか。」
「ああ。俺も気になる。」
走っていこうとするジャミにトムがチョップを食らわせ、気絶している間に宝箱を開けた。
ズシャァという音と共に、大きな宝石やら金塊、豪華な装飾品が流れ出てくる。
「すげえ。」
奴隷たちがキラキラした目でお宝を見つめている。
「すげえな。一生遊んで暮らせる。」
スミスも感嘆の声を上げた。
「だがこれはローミの物だ。契約だからな。」
レイの言葉に一同がションボリする。
「そんなあ。」
いつの間に意識を取り戻したジャミがレイの言葉を聞いて号泣しだした。
「まあ、何だ。これからもダンジョン行こう。ここを攻略出来たんだ。」
何故かレイが皆を慰める羽目になった。




