71.ブラックドラゴン
レイ・トム・レシーア・ミナ・タック・フクン・アレス・ジャミが、ブラックドラゴンにあと十メートルの位置まで近づいた。
既にブラックドラゴンは起き上がっており、レイたちに対峙している。
「騒がしいと思ったらお前らか。」
「喋った!」
驚いたジャミが尻もちをついたが、それを一瞥することも無くブラックドラゴンは羽を広げ、喉を膨らませて攻撃の態勢をとる。
「来るぞ。」
レイが警戒の声を上げ、トムたちは武器を構えた。
ドラゴン特有の咆哮と共に、黒いブレスが吐き出される。
『ライトウォール』
タックとフクンが2重に防壁を張り、ブレス攻撃を防ぐ。
メキメキと音を立てて防壁にヒビが入る。
次の攻撃が来る前にとレイとトムは突進したが、長い尻尾がムチのようにしなりながら迫ってきた。
「近づけないぞ。」
「任せて。」
ミナが素早くドラゴンの背後に回り、背中に短剣を突き刺した。
だが筋力が足りないからか、わずかな傷をつけただけでそれ程ダメージは入っていない。
ブラックドラゴンは苛立ちの声を上げ、背中にしがみついているミナを振り払う。
ミナに意識が向いたと同時に、レイとトムが再び攻撃を繰り出した。
足を中心に攻撃を加えていく。
前足でレイたちを薙ぎ払おうとしたところに、レシーアの光魔法が放たれた。
ドラゴンの顔の前で爆発し、目を眩ませることに成功した。
攻撃が緩んだところに回り込んだアレスがドラゴンの背中を嚙みちぎる。
既にミナが傷つけてところの肉がかなりえぐられ出血した。
「ギャン」
噛みついた後、レシーアの所まで後退したアレスが突如痙攣をおこす。
「アレス回復を!早く!」
レイの叫びにタックとフクンが回復魔法をアレスにかける。
だがアレスの痙攣は止まらない。
白目をむいて泡を吹き始めた。
「ありったけの回復を!状態異常のやつ!」
レイの指示にレシーアは魔法袋から薬を取り出し、アレスの口に含ませた。
アレスの痙攣は止まったが、足の震えが止まらない。
「アレス!レシーアたちを守って。」
どうらやブラックドラゴンの皮膚や血には毒が含まれているらしい。
アレスの攻撃は無理だと判断したレイは、後方に下がるように命令する。
回復したアレスは尻尾を丸めて、レシーアの横でうなだれてしまった。
アレスを慰めたいがそんな余裕はない。
ブラックドラゴンの体に触れないよう、レイ・トム・レシーアは爪や尾っぽの攻撃を避けながらヒット&アウェイを繰り返す。
「小賢しいわっ。」
イライラしたブラックドラゴンが、空へと飛び立つ。
上空に逃げられたため、レイとレシーアが光魔法で攻撃を始めた。
ブラックドラゴン強く羽ばたくと、風を巻き起こして光魔法をはじく。
そして上空で体が赤黒く輝き始め、喉が膨らみ始めた。
「ジャミ、3匹連れて退避の準備を!」
「分かった。」
一番後方に控えていたジャミが、アレスを抱えて逃げる準備をする。
タックとフクンはジャミの両脇で防壁を張る準備をしていた。
「オリたちの魔法でもアレ防げないにゃ。」
タックがレイに叫ぶ。
ブラックドラゴンは渾身のブレスで決着をつけようとしていた。
「レシーア、俺にバフかけてくれ。速くなるやつ。」
「ファスト。」
レシーアがバフをかけたと同時にレイはトムに向かって突進する。
トムは手を組み合わせてレイを待ち構えていた。
レイの片足がトムの手に乗ったと同時に、トムがブラックドラゴンめがけて投げ飛ばす。
レイが捨て身の攻撃をするのが分かったブラックドラゴンは、レイめがけてブレスを吐き出した。
『ライトウォール』
タックとフクンの2重防壁がレイの前に展開されるが、特大ブレスを前にして、メキメキと音を立てて崩れてしまった。
「ライトウォール」
レシーアも防壁を張り少しでもレイのダメージを減らそうとした。
だが、威力を弱めつつもブラックドラゴン渾身のブレスがレイを襲う。
皮膚が一瞬で焼きただれ、血が沸騰するような感覚が体中を襲う。
意識が飛びそうになりながら、レイは右腕を突き出し、ブレスを吐いて無防備になったブラックドラゴンの喉元に剣を突き刺そうとした。
あと少し、ほんの少しの所で、レイの体から力が抜けていく。
既に限界を迎えた体が悲鳴を上げ、レイは絶望を感じていた。
意識を手放そうとしたところで、レイは聞きなれた声が意外な言葉を発するのを聞いた。
「ヒール!」
その声を聞いた途端レイの意識がわずかに戻った。
目の前にあるドラゴンの喉に、もうあまり動かない両手で剣を力いっぱい握り直し、勢いそのままに突き刺す。
2度目のブレスを吐こうとしたブラックドラゴンの咆哮を聞きながら、レイは意識を手放した。




