66.宝箱
「こりゃ良いな。」
6匹分のドラゴンの皮を前にしてスミスは満足そうだ。
「だがアースドラゴンの皮はなあ。重いから鎧には出来んな。」
「そうか。」
5匹分の皮から装備を作るという。
「全員分揃えるにも急いで10日位かかりそうだ。大丈夫か。」
「頼む。」
サクソウのことを考えると急ぎたいが仕方がない。
最下層ボスはブラックドラゴンだ。今の装備で戦ってもひとたまりもない。
はやる気持ちを抑えながら、次の日もペガルダンジョン最下層へと向かう。
「刃こぼれがまたヒドくなりますな。どうしますか。」
トムが持っているハルバードを見ながら言った。
スミスに毎日メンテナンスしてもらっているが、最下層でドラゴン6体倒したら、使い物にならないくらい刃こぼれした。レイの剣に至ってはヒビが入っていたくらいだ。
さすがにレイも肝を冷やして、予備の剣を魔法袋にしまっている。
レイとトムの武器は、ミスリルに混ぜ物をしたミスリル合金製だ。ドラゴンは何度か攻撃すれば倒せるが、上位種のブラックドラゴンに攻撃が通じるかは分からない。
「もっと良い素材が欲しいな。」
「そうっすね。シニフォダンジョン潜ります?」
「全員分防具の素材を集めたらそれもアリだな。」
ペガルダンジョン最下層のドラゴンからは皮と魔石しか取れない。
武器用の素材を取るために、シニフォダンジョンの下層に潜ろうかと思っている。
レイたち一行は転移魔方陣を通り、昨日と同じように最下層でドラゴン狩りを始めようとした。
「ん?」
「ん?」
またジャミが変な声を出した。レイは何事かとジャミの方を振り向く。
「どうした。」
「師匠、あれ。」
ジャミの指さす方向をレイとミナが凝視した。ミナは顔を輝かせて嬉しそうに叫んだ。
「でかした!」
レイには草原が続いているようにしか見えないが、斥候の能力を持つ2人は何かに気が付いたのだろう。
「宝箱あるよ。」
「草原にか。」
「そう。ここから20メートル位だね。行く?」
「まずドラゴン狩りからだな。」
レイは武器を構える。
昨日と同じようにレイたちを認識した複数のドラゴンが、空から地上から襲い掛かってきた。
連携しながら1匹ずつ倒していく。
「ミナ!宝箱は諦めろ。」
「そんなあ。」
ミナは残念そうだが、レイたちは目の前のドラゴンを倒すのに精一杯だ。
レッドドラゴンとブルードラゴン1匹ずつ、アースドラゴン2匹と戦い、魔力も武器も限界が来ている。
少しずつ後退し、安全な入口の所まで退避した。
「無理だよねえ。やっぱ。」
ミナは宝箱を開けられなかったことを悔やんでいる。
「死んだら元も子もないからな。次頑張ろう。」
レイも宝箱の中身が気になったが、安全を優先させた。
もっと近くにあった時に取ればいいと自分を無理やり納得させる。
「ん?」
お宝大好きなジャミが大人しいなとレイが振り向くと、ジャミの頬が緩んでいるのが一瞬見えた。
「…ジャミ、出せ。」
逃げようとしたジャミの足にレイがしがみつく。
態勢を崩したジャミを、またもやミナがヘッドロックをかけた。
「ぼお、どおじで。」
ジタバタするジャミの魔法袋にレシーアが素早く手を突っ込むと、「これね。」と言いながら黒い塊を引き抜いた。
「何だこれ。」
レイたちが不思議そうにのぞき込む中、黒い塊は怪しく光っていた。




