63.作戦会議
「さて、作戦練り直すぞ。」
食事の後、レイが話し出す。
レイたちの周りを戦闘に参加した奴隷たちが取り囲むように座った。
他の奴隷たちはローミの部下に聞かれないように、外に向かって騒いでいる。
「今回の戦いでの意見でも感想でもくれ。良かったこと、悪かったこと、対策、何でもいい。」
レシーアが勢いよく手を上げる。
「良かったことは死人が出なかった事ね、難しいダンジョンで。もっと自信を持ってもいいと思う。」
「俺からも良いか。最初は皆ポイズンフライも中々倒せなかった。1週間でワイバーンを倒せるようになったんだ。強くなったろ。」
スミスは奴隷たちの成長が嬉しいようだ。
「皆、強くなったんだな。ありがとう。」
レイは奴隷たちに感謝する。
戦闘に参加した奴隷たちはモジモジしながら互いに顔を見合わせていたが、やがて1人がおずおずと手を挙げた。
「あの、よろしいでしょうか。」
「いいよ。」
「あの。やっぱり俺たちのレベルが低いのは問題だと思います。ドラゴンに攻撃が全然通じませんでした。」
「そうか。レベル上げは大事だな。他にもどんどん意見を出してくれ。」
「自分は装備をもっと強くした方が良いかと思いますぞ。」
「トム、そう思うか。」
「はい。少なくとも俺たちと同じくらいの強さのもんは揃えたいっす。スミスさんどうっすか。」
「そうだな。ドラゴン相手にミスリルはキツい。鎧もオーガ皮じゃなくってもっと良いもん揃えなきゃな。」
今までは持っている装備で不自由は無かったが、ドラゴン戦を見据えると、奴隷たちの武器ももっと強いものにして、最下層で加勢してもらった方が良い。
「僕も良いでしょうか。」
別の奴隷が手を挙げる。
「言ってくれ。」
「ドラゴンの弱点ってありますか。ワイバーンとかポイズンフライは重さが増す液体で動きを邪魔してって出来たんですけど、ドラゴンには全然通じなくて。ドラゴンも弱点を突く攻撃が出来たらと思います。」
「それも重要だな。」
「からめ手だね。飛べなくさせたら戦いが有利になると思う。」
ミナも同意のようだ。
「すいません。不安なことがあります。」
魔法使いとして参戦した奴隷が意見を出す。
「最下層でドラゴンを倒してって出来たとして。ボスのブラックドラゴンはどうしますか。魔法も物理攻撃も効きづらいって、倒せるのかなって思います。」
「それが一番辛いな。ブラックドラゴン倒した奴なんているのか。」
レイが腕組みをして考える。
「少なくともドインは出来ると思う。レベルとスキルのごり押しだろうけど。」
あまり参考にならないとでもいうように、レシーアが首を振りながら言った。
「私は戦っておりませんが、意見をいいですかな。」
「はい。」
カンタがにこやかに近づいてきたため、レイは少し驚いた。
カンタはアウド領で村長をしていた老人だ。厳しい税の取り立てに耐えかねて、村人全員がレイの奴隷となった経緯がある。今は奴隷たちの取りまとめや教育係としてかなり力を発揮していて助かっていた。
「ブラックドラゴンやらドラゴンの倒し方は、図書館やギルドで情報を集めるのが良いかと思います。過去にどのようにして倒したのか、文献があるやもしれません。」
「そうですね。」
「ここはダンジョンが他にもあるそうで。資金稼ぎや素材集めでそれらのダンジョンに入るのも良いかと思います。手分けして情報を集めませんか。それでしたら私たちもお手伝いできます。」
「事前に情報は結構集めたがな。」
スミスは顎に手を当てて言った。
「問題点がはっきり分かった上で集めたら、前には知らなかった有用な情報が出てくるかもしれません。まずは問題点を整理し、それに関する情報を集めましょう。」
レイはカンタの言葉を聞きながら、頭の中がスッキリしていくような気がした。
「カンタの言う通りかもしれない。スミスは事前に情報を集めてダンジョンに潜ってくれていたが、俺はその情報もロクに聞かないで初見で行ってしまった。急ぎすぎたのかもしれないな。」
別れ際にセイクルズのリーダーであるセインにも言われたことだ。情報を集めろと。
サクソウのことは心配だが、焦って潜ってを繰り返せば、いずれ犠牲が出るかもしれない。
急ぎすぎて攻略に失敗したら元も子もない。
誰が何をすべきか明日からの役割について夜遅くまで話し合いは続いた。




