60.ペガルダンジョン2階層
「そんじゃボスがリスポーンする前に行くぞ。」
スミスの指示に従い、皆で階段を下りていく。
途中踊り場のようなところに魔法陣があった。
「何でここに魔法陣が。」
レイが疑問に思う。
「これはダンジョン入り口まで戻れるものよ。2階層に進みたくなかったら、ここから戻るの。」
レシーアが解説してくれるようだ。
「転移するのか。」
「そうね。上に乗って魔力を込めると転移出来るわ。」
「興味を持ってるとこ悪いが早く行くぞ。」
気合の入ったスミスが2人に声をかける。
レイが後ろ髪をひかれながら暗い階段を下りていくと、1階層と同じように2階層にも気持ちの良い青空と草原が広がっていた。
「構えろ!」
スミスの合図とともに、奴隷たちが素早く陣形を作る。
レイたちが2階層に入ったと同時に、ゆっくりと飛行していたワイバーンが一斉に襲い掛かってきた。
戦い方はポイズンフライの時と一緒だ。今度はレシーア以外の魔法部隊も戦闘に加わる。
矢と魔法をワイバーンの体や羽に当てていく。
だがポイズンフライよりも強靭なワイバーンの動きは中々鈍くならない。
「焦るな。確実に1匹ずつ当てていけ。」
『おう。』
2階層に入る通路を背にして、ワイバーンに攻撃を加える。
何千本と用意した特殊な液体付きの矢を、1匹あたり数十本使って動きを鈍らせていく。
高度が低くなったところを槍使いが突き、とどめを刺す。
足元の罠に警戒しながら、少しずつ前進していく。
元々は2階層入り口までスミスと奴隷たちで戦う計画だったが、今の戦いぶりを見て作戦を変更する。2階ボス部屋まで進むことをスミスが決めた。
「良いぞ。半分まで来た。気を緩めるな。」
『おう。』
スミスと奴隷たちは戦ううちに自信を深めているようだ。
ワイバーンと戦い始めてから3時間ほど経過しているが、全員の動きが良くなっている。
1匹を倒す時間が短くなっているのが分かる。
レイたちは戦いに参加していないが、周囲を警戒しながら陣形が崩れそうなところに時々加勢する。
やはり迷いの森でワイバーンと戦った経験からか、レイたちが参戦すると一撃で素早く倒せることが多い。
タックとフクンはミナとレシーアの背中で、「殺れ殺れー。」と歓声を送っている。
ジャミはというと地面に這いつくばって、戦利品の魔石と素材をせっせと魔法袋に詰めていた。
6時間ほど経過したのち、とうとう2階層のボス部屋へとたどり着く。
スミスは申し訳なさそうに言った。
「俺らはここまでが限界だ。ボスは頼む。」
「任せてくれ。ここまでありがとう。行くか。」
「ちょっと皆の様子を確認するから待ってくれ。」
スミスが奴隷たちの状態を確認する。
奴隷たちは戦いに参加しないが、レイたちの後方で支援するため、矢の残数などによって配置を組み替えていく。
「行くぞ。」
『おう。』
レイの号令と共に、一気にボス部屋になだれ込んだ。
ボス部屋の中には羽を広げると10メートルほどになるキングワイバーンが宙を舞っている。扉が閉じると同時に滑空し、レイたちに襲い掛かってきた。
『ファイア』
レイとレシーアが同時に魔法を撃つ。
「ウギャアア」
頭に命中しキングワイバーンはのけぞったが、大したダメージは入っていない。
レイたちが魔法を撃つと同時に素早く飛び出していたミナがムチを振るい、ワイバーンの尻尾に絡ませる。その勢いのままムチを引いて体勢を一気に崩した。
後れてトムがワイバーンの足の付け根を下から切りつける。
足から血が噴き出したキングワイバーンは悲鳴を上げ、力強く尻尾を振るうと空に逃げようとした。
「エペトラ」
レイがキングワイバーンの頭に岩を落とす。
「グギ」
頭がひしゃげ首の曲がったキングワイバーンはフラフラしながら地面へと落ちていった。
レイは剣を抜き、トムと共に切りかかる。
ミナもムチから短剣に武器を持ち替え、急所を狙って切りつけていった。
トムのハルバードが胸を貫き、レイの剣が首を深く切り裂くとキングワイバーンは絶命し、魔石と皮を残して消えていった。
「さすがだな。俺たちの出番無かったわ。」
スミスが感心したようにつぶやく。
「ここまで体力温存出来たからな。明日いよいよ最下層だな。」
レイが剣を納めながら言う。
「いや、一日明けた方がいいだろ。明後日行こう。レイ、気になるようなら明日は先に下りて魔法陣描き写せ。」
「分かった。タック、フクン、明日魔法陣見に行こうか。」
「うにゃ。」
「いいにゃよ。」
明日はレイにたっぷりと魔法陣を堪能してもらい、明後日挑戦するとスミスは判断した。
レイは楽しみが出来たからか、うきうきとトイレや風呂を作っている。
攻略スケジュールを決めていたスミスたちの背後では、キングワイバーンの魔石と皮をちゃっかりと自分の物にしたジャミを、レシーアとミナが見つけてシバいていた。




