55.マールとローミ
ローミはマールたちに向かい合うように椅子に座った。
「サクソウですか。」
胸の前で指を組み合わせ笑顔で答える。
「そうさね。孫は今Bランクでね。どうしてもAランクになりたいって言うんだよ。実に良い男でね。」
うっとりした顔でマールが話を続ける。
「器量が良いし強い。Aランクになるにゃピッタリの男さね。でもパーティ組んでなくてね。」
悲しそうにマールが首を振る。
「どうしてもAランクになってほしいんよ。で、ロックウッドが奴隷落ちしたって聞いてね。2人は確保したから、残り3人も欲しいさね。」
既にレシーアとミナを奴隷にしたことを伝える。
ここまでは事前にライバからローミに伝えられていたことだ。打算で欲しいことを伝えてサクソウを助ける算段だ。
「そうですか。それにしてもお孫さんはどこですか。」
あくまでも笑顔を崩さないローミが尋ねた。
「ライバに呼ばれて斥候崩れのチビ女と一緒にいるんでね。しばらく別行動さね。早く顔が見たいよ。」
マールが肩をすくめる。
「なるほど。ミナも捕まったと聞きましたが、いないのはそういうことですか。」
とローミは言いながら手元にあるボタンを押す。
するとマールたちが入ってきた扉から、手錠でつながれたサクソウが兵士に連れられて入ってきた。
顔は痩せこけ、歩く足元がおぼつかない。
「サクソウ!」
悲鳴に近い声を上げて、レシーアがサクソウの元に駆け寄ろうとした。
「何勝手なことしてんね!このアバズレが!」
マールが持っていた杖でレシーアを叩きつけた。
すかさずスミスがレシーアを蹴り上げ、鎖を引っ張り元の位置に戻す。
「レイのもんだってことが分からなんだ!勝手なことしよって!」
マールが唾を飛ばしながらレシーアをどなった。
一連の出来事を表情を一切変えずに聞いていたローミが交渉の条件について話し始めた。
「ではサクソウさんをお渡しする条件ですが、ライバから聞いてますよね。」
「高難易度ダンジョンの攻略って聞いとるよ。」
「そうです。この町には3つのダンジョンがありまして。お孫さんたちには『ペガルダンジョン』を攻略してもらいましょう。」
ローミは相変わらずにこやかなままだ。
「失敗した場合はレシーアとミナを譲っていただけるということで良いですね。」
マールはキッとローミを睨みつける。
「婆さんだと思って舐めんじゃないよ。そんな約束しとらん事くらい知っとるよ。どのみち失敗すりゃ2人とも死ぬんだ。ダンジョンで間引き出来なきゃそっちも困るだろ。」
「まあ、そうですがね。」
ローミは肩をすくめた。
高難易度ダンジョンであるペガルダンジョンに潜る冒険者は少ない。
3階層からなるこのダンジョンは、各層がとても広い。
1層目はポイズンフライ、2層目がワイバーン、最下層はドラゴンが出る。
3層とも飛ぶ魔物が出るのに加えて、足元には罠がある。
広い階層のどこかに転移したり毒が噴き出したりするため、戦いながら足元にも気を付けなければならない。
ライバからの事前情報で、ペガルダンジョンから魔物があふれ出さないようにするため、ローミは大金を払って複数のAランク冒険者パーティーに定期的に間引きさせていることが分かっている。
ローミが事前の取り決めにしれっと失敗したときのペナルティを付け加えてきたため、マールはピシャリと断った。
「バカなこと言っとらんで、早う契約書にサインしな。」
マールはライバが用意した契約書を2通取り出し、ローミに突き付ける。
ローミは2枚の契約書の表裏をじっくりと確認した後、懐からペンを取り出しサインした。
サイン後返された契約書はマールとスミスに念入りに確認された後、マールがどちらの契約書にもサインする。
互いに1通ずつサインした契約書を懐にしまい、マールとスミスはレシーアを連れて、足早に町の外の拠点へと向かった。




