54.ローミの町
ローミの町は他の4大領主の町と同様に、巨大な防壁で囲まれている。
だが町の中に足を踏み入れると、他の町との大きな違いに驚くだろう。
門で一通りのチェックを受けて入ると、町中はひどく雑多であちこちで怒号が飛び交っている。
道を歩く人々は必ず武器を携帯しており、目つきが鋭く隙が無い。
実は町の住民の7割が冒険者で、残りの3割が冒険者を相手に商売する人たちだ。
商売人も冒険者を相手にするためか、立派な体格をしている者が多い。
「相変わらずうるせえ町だな。」
スミスが顔をしかめながら言う。
マールとスミスは奴隷首輪をつけたレシーアと共に、領主であるローミの所に向かっていた。
トムは奴隷たちと共に町の外で留守番だ。思っていることが顔に出やすい彼は、今から行われようとしている交渉に不向きだからだ。
3日前ローミの町にたどり着いたトム達一行は、町に入るとき衛兵にライバの書状を渡していた。
書状を受け取った衛兵が直ぐに衛兵長を呼んできた。
衛兵長は領主に確認するから少し待つようにと言い、今日になってようやく領主から会うことが許されたのだ。
「冒険者が多いさね。」
マールが不思議そうに言う。ローミの町をいくらか知っているスミスが答えた。
「ダンジョンが多いからな。町の中だけで3つある。」
「ありゃまあ。」
マールが驚くのも無理はない。通常、町はダンジョンを避けて作られる。
ダンジョンから魔物があふれ出すことを懸念してのことだ。
だがローミの町は、ダンジョンが複数あることを逆手に取り、冒険者の町として栄えてきた。
難易度の異なるダンジョンが町中に3つあることにより、駆け出しからベテランまで多くの冒険者が活動しやすい環境が整っている。冒険者が集まることによりダンジョン内の魔物が間引きされ、町中にダンジョンがあっても安全でいられるのだ。
3人は町の中心に向かって歩いていく。向かう先の町の中心には高い防壁に囲まれたエリアがある。ローミが住む屋敷だ。
門番にライバの書状を見せると、左手の建物に進むように言われた。言われるままに建物の中に入ると、豪華絢爛な建具や彫刻がゴタゴタと並べられた部屋に通された。
装飾がビッシリと施された机の前にある椅子に2人は座る。レシーアは床に座った。どうやらここはローミの執務室のようだ。
マールが物珍しそうにキョロキョロと周囲を眺めていると、奥の扉から銀髪の男が颯爽と現れた。年は30代後半であろうか、細見の服を着こなしている顔立ちの整った男だ。
「待たせて申し訳ない。ローミです。」
とびきりの笑顔でマールとスミスに握手を求める。
この笑顔を向けられれば、どんな女性もたちまち笑顔になり柔らかい物腰になるのだが、マールはムスっとしたままだ。
実は目の良いマールは男が部屋に入ってくる瞬間、扉の中の様子を一瞬だけ見ていた。
うずくまる裸の女性が少なくとも3人いたことを知っている。
「いいさね、つまらん話をするのも何だね。本題に入ろうか。」
握手をしながらマールはぶっきらぼうに話を続ける。
「サクソウくれんかね。孫がAランクになるのに必要なんでね。」




