52.命名
レイは不思議そうにライバを見た。
「どうしました、ライバさん。」
「いえね、キャワいいフェンリル様のお名前をどうしようかと思って。」
「俺が名付けますが。」
「…。」
ライバだけではなく、何故かミナやジャミの視線が痛い。
(考えて付けた名前がタックとフクンでしょ。)
と言われているような気がする。レイが前世飼っていた猫の名前にちなんで付けたのだが、どうやら皆のお気に召さなかったらしい。
レイはそんな視線を振り払うように小さなフェンリルの名前を考えた。
「フェンリルだからフェンはどうだ。」
「我の子になんという名前を付けるのだ。噛み殺すぞ。」
キングウルフも安直な名前にショックを受けたのか、牙をむき出しにしながら怒っている。
「1000年ぶりのフェンリル様ですぞ。ふさわしい名前を付けなければ。」
ライバは眼鏡をグイッと上げながら言った。
「アレクサンドロス・ボナパルト様はどうでしょう。」
「長ったらしすぎるでしょ。」
ミナが呆れている。
この世界では短く分かりやすい名前を付けるのが普通だ。その方が戦いなどの時に呼びやすいからだ。長ったらしい名前を付ける王族や貴族も少数いるが、大きくなるにつれて自ら短い愛称で呼ばれるのを好むようになる。
レイとミナは互いに顔を見合わせたが、
「短くて、分かりやすくて、カッコよくて、強そうな名前なんて、そうそう思いつくか。」
「オスかメスかも分からないもんね。」
と腕組みしながら考え込んだ。
考え込みながらレイは前世の記憶を手繰り寄せる。戦いの神はどのような名前だったか。ゲームや小説に出てきたような。
しばらく考えた後、レイはポツリと言った。
「アレスってのはどうだ。」
確かギリシャ神話の戦神だったはずだ。オスかメスか分からないが、メスだったらアーレスと伸ばせばしっくりくるような気がする。
「まあ、悪くはないな。」
キングウルフは気に入ったようだ。ライバもうんうんと頷いている。
「レイにしちゃまともな名前付けるんだな。」
褒めているのか、けなしているのか分からないがジャミも同意するようだ。
「お前の名前は今日からアレスだ。」
レイはフェンリルの頭を優しく撫でながら話しかける。
アレスはミルクを飲んでお腹一杯になったのか眠たそうだ。
人間たちがフェンリルの名前で盛り上がる中、
「にゃんか納得いかにゃい。」
「ね。」
絶妙なダサさの名前を付けられた2匹の猫は、ちょっぴり怒っていた。




