50.出産
レイたちは3日ほど走り続け、ライバの町の近くへと来た。行きは1週間ほどかかっていたため、大分速く走り続けたことになる。
「もうすぐライバの町だ。もってくれ。」
レイがキングウルフを励ます。既に陣痛が始まっており、朝には破水もしたようだ。
タックとフクンが回復魔法をかけながら、ライバの町の防壁が見えたタイミングで森の奥から街道に出た。
「わっ!」
前を走っていたジャミが叫ぶ。
町の方から何かが高速で近づいているからだ。かなりの高速で、周囲に土埃が舞っている。
「皆さーーーん。お待ちしてましたーーー。」
高速で近づいてきていたのはライバだった。
今日は頭にリスみたいな魔獣を乗せていないため、もじゃもじゃ頭が直に見える。
ライバはレイと並走を始めた。魔法使いだがレベルが高いのか、レイに遅れることなく走っている。
西門に一行が近づいてきたとき、門が急に開かれた。
「そのまま入って!私の屋敷に向かって!」
50頭ほどのウルフたちと共に、速度を落とすことなく町に入っていった。
普通ならパニックが起きてもおかしくないのだが、衛兵たちが道を空けてくれており、ライバの屋敷まで道を歩く人は一人もいない。
曲がりくねった道を駆け抜け、町の中心にある大きな屋敷にたどり着くと、ライバの妻カウミが「こちらへ。」と誘導した。
レイたちが泊った離れの奥にある大きな建物へと案内するようだ。
案内されるまま大きな扉から建物の中に入ると、巨大な空間が広がっていた。
中央には柔らかそうなベッドが用意され、周囲には医者やエプロンを着けた者が今か今かと待ち構えている。
「ベッドにウルフさんを!」
ライバに言われ、レイは玉座ごとキングウルフをベッドの上にそっと置く。
安心な場所に来て急に気が緩んだのか、キングウルフが吠え始めた。
「大丈夫です。魔獣専門の医者と、医者と、助産師がいます。」
キングウルフの出産にどれほど力を入れて準備したのか、魔獣専門の医者だけではなく、人を診る普通の医者や助産師も連れてきたようだ。
ライバの無茶ぶりに慣れているのか、全員テキパキと動いている。
イケメンハイウルフも心配なのか、ベッドの周りをウロウロしていた。
キングウルフの股の間を見ていた医者が大きな声で指示を出す。
「もうすぐですよー。ハイ力んでー。」
「ヒッヒッフーヒッヒッフー。」
ライバも人間の呼吸法を叫びながら、キングウルフの股の間を凝視している。
普段ならキングウルフに蹴り殺されるであろうが、今はそれどころではない。
「ウオーン。」
ひときわ大きい声でキングウルフが吠えたと同時に、小さい何かがズルっと出てきた。
「ポエァ。」と小さく鳴いている。
「良いですよ。赤ちゃん元気ですよ。もうひと踏ん張りです。」
「ウオーン。」
2匹目。
「ウォンウォーン。」
3匹目。
「ウォォォーン。」
4匹目。
「はい。無事産まれましたよ。赤ちゃん皆元気です。」
小さい声で「ポエァ。」と鳴くちびウルフが4匹産まれた。3匹はお母さん似の黄金の毛並みだ。最後に生まれた1匹は、白銀の毛並みをしている。
「はい、お母さんの所に行きまちょうね。」
ライバはすっかりデレデレだ。
レイとライバはちゃっかりと1匹ずつ抱きかかえ、他の2匹と共にキングウルフに見せた。
お産で疲れ果て寝そべっていたキングウルフはわずかに顔を上げ、愛おしそうに自分の子供を見る。
だが、レイが抱えた白銀に輝く子供を見た瞬間、キングウルフは唸りながら尾でその子供をレイの手から叩き落した。




