44.出発
サクソウ救出を話し合った1週間後、レイたちはローミの町に向けて出発した。
放免を希望した奴隷は50人ほどいたが、ライバの面談によって最終的に28人の放免と町への移住が決まった。老人や戦えないほど体が不自由な者は断られてしまった。レイは放免した者の奴隷紋を消しながら、今度のことを考えていた。断られたことは仕方が無いと思いつつ、以前トムと話し合ったようにどこかに拠点を作った方が良いだろうと思っている。
通常の旅よりは快適とはいえ、やはり気持ちが落ち着かない。
1週間の期間があったため準備は万端だ。
レイのレベルは40を、トムのレベルは30を超えた。レシーア曰くAランクの冒険者に匹敵する力があるという。スミスや奴隷たちのレベルも上がっている。マールも必要な物を買いそろえ、ライバから堂々と盗んだ通話と空間移動の魔法陣を使って、既に魔道具も作っていた。ついでにマール専用の大きな馬車もちゃっかり作っている。
「じゃ、ちょっと痛いけど我慢しな。」
マールがレシーアとミナの首元に奴隷用の首輪をつけた。一目でレイ奴隷と分かるようにするためらしい。マールから「サクソウを助けるためだ。」と言われ、レイも渋々同意した。
レイはライバからもらった書状3通を腰に付けた魔法袋にしまう。1通はローミとの面会のため、もう1通はレイがサクソウを欲しがっていることが記されており、最後の1通はサクソウ奪還の条件を記した契約書となっている。
「既にローミには話してますから。」
相変わらず眼鏡をずり上げながらライバは言った。
「サクソウさん解放の条件に付いても決まってます。予想通りでした。話した通り、マールさんが交渉してあなたたちが頑張る。シンプルですが中々大変ですよ。」
「分かった。」
レイの顔が引きつる。予想通りだとしたら命がけの奪還となるだろう。
「ライバさんお世話になりました。」
「こちらこそ、オーガ討伐ありがとうございます。犠牲が出なかったのはあなたたちのおかげだ。」
2人は握手を交わし、ライバが猫たちとの別れをねっとりと惜しむ前に、レイたちは西側の門からローミの町に向けて旅立っていった。
「面白い人たちでしたね、父様。」
傍らにいたライルが呟いた。
「そうですね。中々好青年でした。」
「でも勇者様や副団長のこと言わなくて良かったんですか。」
「ん。レイさんは勇者のこと探してそうでしたね、理由は分かりませんが。親しくなった相手でも、相手の求める情報を全て言えば良いってもんじゃありません。」
2人が話していると、ライバの屋敷の奥からリザードホーズ8頭立ての立派な馬車が出てきた。
御者をしていた男がライバに声をかけた。
「長々と申し訳ございません。王都に帰ります。」
「お気をつけて。ハリナ様が回復されますよう、お祈り申し上げます。」
馬車が静かに南側の門から出ていった。
「どうなるのでしょう。」
ライルが馬車を見送りながら心配そうに言った。
「ハリナ様の命は助かるでしょう。その後どうなるか分かりませんが。」
「勇者様たちが逃げなかったら。」
「無理でしょうね。彼らにレイさんのような強さはありません。強くなろうともしてなかった。王都まで逃げ帰る速さは相当のものでしたが。」
勇者と入れ違いにライバの町に来たことを知る由も無く、レイたちはローミの町を目指していた。




