42.国家機密?の魔法陣
レイたち5人と2匹はヘトヘトになりながら迷いの森を出た。
ジャミが定期的に悲鳴を上げるため、オーガをはじめとする魔物がひっきりなしに集まってきたからだ。おかげで5人と2匹のレベルは1日でかなり上がっている。
レシーアとミナのレベルは50を超え、レイはレベル30、トムのレベルも20を超えた。
「このままひたすらレベル上げするか。」
「そうっすね。サクソウさんのためにも。」
1日でも早くローミの町に行きたいが、今はライバの予想を信じてレベルを上げるしかない。
レイは離れに戻ると早めの夕食を取るため食堂に向かった。トムも一緒に食べるというが食堂に用意されていたのは1人分だけだった。
「1人分しかないぞ。」
レイは傍にいた給仕係の奴隷に声をかける。
「申し訳ございません。すぐに用意します。」
奴隷が小走りで台所に行くのを見て、レイはため息をついた。
最近小さなミスが多くなっている。食事や寝床が1人分しか用意されていないことが多々あるし、トムたちの居場所を聞いても分からないということがよくあった。
レイの気持ちを察したのか、トムが小声で言った。
「仕方ないですよ。急に奴隷の数増えましたし。」
トムに先に食べろと促され、レイは先に食べることにした。
トムは食事が来るのを待ちながら、猫たちのおやつを用意するように奴隷に言っている。
いつの間にかトムの足元には、タックとフクンがちょこんと座っていた。
よく見る光景に微笑みながら、軽く食事を終えたレイはライバの屋敷へと向かう。
「どうしました?先ほどマールさんはお帰りになられましたが。」
ライバは執務室で机に向かい、せっせと書類にサインしている。近くには息子のライルがいて、小さいながらも父親を手伝っているようだ。
「いえ。マールさんに用はないので、大丈夫ですよ。」
レイはニコニコしながらライバに少しずつ近づいて行った。
「とすると、私ですか。」
「そうですね。少しお話を。」
「何でしょうか。」
「昨夜見たこちらの魔方陣ですが。」
机の横にある2つの小さな魔方陣をレイは指さした。
「どのようなもので。」
「国家機密ですのでお話しできません。」
「そうですか。」
「例えば遠く離れたところにいる人と会話できたり、物をやり取り出来たら便利ですよね。」
「父様!」
ライルが思わず叫んでいる。
「そうですねえ。便利ですね。」
「そうですよ。ただそれ以上近づいてはいけませんよ。ましてや魔方陣を書き写そうなどと…おっとペンを落とした。」
ライバはわざとらしくペンを落とす。
「どこ行ったんだ。あのペンはサインするのに丁度いいのに。」
すぐに見つかりそうなものだが、ライバは机の下をガサゴソしている。
ペンと紙を持ったレイは素早く2つの魔方陣に近づいていき、その形態を書き写し始めた。
「レイさん!父様、レイさんが。」
ライルはレイを止めようとするが、レベル30以上あるレイとあまりにも力の差があった。
自分の父に加勢するように叫ぶが、当のライバは、
「あっ。ペンありました。あれー。レイさん、止めてください。国家機密ですよ。」
と口では止めるそぶりを見せながら、頭のリスを撫でながら何故か踊っている。
半泣きになりそうなライルと踊り狂うライバと、淡々と魔方陣を描き写すレイと、端から見ると中々カオスな光景だ。
レイは丁寧に魔方陣を描き終えると、「それでは、お邪魔しました。」とだけ言い、執務室を出て行った。
「どうするんですか、父様。」
とうとう泣き始めたライルの頭に優しく手を乗せライバは言った。
「世の中、清廉だけでは大領主になれませんよ。時にしたたかに、時にずる賢く。相手の提示した条件が良ければ、こちらもリスクを負うことはあるでしょうね。」
「何言ってるか分かりません。父様。」
泣きじゃくるライルの横に立つライバの腰には、魔法袋がぶら下がっていた。




