41.ワイバーン
翌日マールはライバと共にサクソウ奪還の細かい作戦を立てるため、屋敷に籠っていた。
スミスは戦える奴隷たちを連れて、南西、つまり迷いの森の反対方向でオークなどの魔物を狩るという。
戦えない奴隷たちは、それぞれ魔法陣や薬草について離れで勉強をするそうだ。カンタが面倒を見るという。
昨夜のライバとの話し合いでやるべきことが出来たレイ・トム・レシーア・ミナは、タックとフクンと共に迷いの森の入口に来ていた。
何故かジャミもミナに引きずられて連れてこられている。
「ヤダよう。怖いよう。」
「生き残りたければ黙って。騒いだら魔物から襲われやすくなるよ。」
ミナに脅され、ジャミは急に大人しくなる。
「さて。それでは。」
トムが気合を入れるようにハルバードを担ぎなおす。
「行きますか。」
トムに応えるようにレイも剣を引き抜いた。
5人と2匹は迷いの森に足を踏み入れていく。
レイはライバとの話し合いを思い出していた。ライバの予想通りなら4人と2匹の強さがサクソウ奪還のカギとなる。出発まで1週間しかないが、出来る限りレベルを上げたい。
「レイは魔法を使わないようにね。」
レシーアから今回の課題が出る。余程のピンチにならない限り、レイは剣のみで魔物を倒すことになる。
「で、ワイバーンはどこにいるんだ。」
「あの山のふもとね。出来ればはぐれた奴を1匹ずつ倒したいわね。」
レシーアは遠くに見える赤い岩山を指さす。
他の魔物に遭遇せずに近づきたかったが上手くいかず、時々オーガやポイズンスパイダーと戦いながら赤い山を目指して一行は進んでいた。
「キアァ。」
突然甲高い金属音が上から聞こえてきた。見上げると巨大な黒いトカゲのような魔物が空を飛んでいる。羽を広げるとオーガよりも大きい。
「アレがワイバーンか。」
「そう。ジャミ投げて。」
「ふああ。どうにでもなれ!」
ヤケクソになったジャミが魔法袋から塊肉を取り出し、空に向かって投げた。
ワイバーンは肉めがけて凄まじい勢いで滑空している。
「来るわよ。」
「よし来い!」
全員武器を構えてワイバーンを見つめる。ワイバーンは肉の先に旨そうな人間がいることが分かると、目標をレイたちに変えて飛行速度を上げてきた。
「はい。よいしょー――。」
トムのハルバードがワイバーンの口ばしと交差する。
キンという高い金属音がして、ワイバーンの口ばしを受け止めたトムが後ろに押されていった。攻撃が止められたことが分かると、今度は羽ばたきながら体制を変えて鋭い爪で蹴り上げようとする。
「はっ。」
トムと共にレイが剣で爪を受け止める。ワイバーンは少し体を斜めにして、尾の毒針でレイを刺そうとした。
「うりゃ。」
ミナが器用にムチを振るい、尾の動きを封じる。
体勢を崩した隙を見逃さず、レイがワイバーンの懐に飛び込んだ。
胸のあたりを下から突き上げるように剣を突き刺す。
「キーーーアァ。」
金切声のような鳴き声を上げてワイバーンがのけぞった。
トムはワイバーンの右側に素早く移動すると跳躍して首を切り落とす。
ズンという重い音とともに、切り離されたワイバーンの首が地面に転がり落ちた。
「ふう。」
「何とか一体倒せたな。」
レイとトムにタックとフクンを抱っこしたレシーアが近づく。
「そうね。今日から1週間、日が昇ってから昼過ぎまでワイバーン狩るわよ。」
「嘘だろ。俺は。」
「ジャミ、諦めて。あんたも毎日ワイバーン狩りよ。」
「嘘だろーーー。」
ジャミの悲鳴が迷いの森にコダマした。魔物たちがジャミの所に集まってきたのは言うまでもない。




