39.マールの手腕
「ん?その方は。」
ライバが大きな眼鏡をずり上げながら尋ねた。トムが慌てて答える。
「すいません。俺の婆ちゃんです。婆ちゃんダメじゃん、いきなり入ってきちゃ。」
「何だい。裁判終わったんだろ。早う町行くべ。金に換えるもんいっぱいあるだろ。あたしはパン食いたいんだよ。」
腰に付けている魔法袋を叩きながら、マールはレイたちを急かした。
「そうですねえ。気分転換に行きますか。」
ライバが椅子から立ち上がった。
「いいんですか。」
「ここにいても良いアイディア浮かばなかったでしょう。それに私も書類を作り続けていて、いい加減疲れましたよ。」
苦笑しながらライバは頭のリスを撫でる。
帽子かと思っていたが、もぞもぞ動くところを見ると従魔を頭に乗せているようだ。
マールとその他6人は議論を後にして、町へと繰り出した。
だがマールは商人ギルドに寄ることなく、近くの屋台で肉串を買って、屋台主と何やら話している。
「待ったかい。じゃあ行くべ。」
先頭を張り切って肉串を食べながらマールが歩く。だがマールは商人ギルドに寄ることなく、今度は酒場に入った。
「うーし。」
4人掛けのテーブル席にドカっと座ると、マールは酒を注文した。
酒場は中々に混んでいて、マールとレイとトムが同じテーブルに座り、ライバたち4人は少し離れたテーブル席に座った。
オーガ戦に勝利した興奮からか、周りは上機嫌の冒険者だらけだ。
マールは隣の席に座る2人組の冒険者に声をかけると、酒を追加で注文しその冒険者にふるまった。
「婆さんすまねえな。おごってもらって。」
「いいんだよ。あんたたちのおかげで町救われたんだからね。英雄さね。」
既に出来上がってご機嫌な冒険者としばらく話していたが、ふとマールが立ち上がった。
「少し酔ったようだね。外の風にあたってくるよ。」
「婆さん無理すんな。酒ありがとよ。」
「良いってことよ。じゃあね。」
酔ったとは思えない軽い足取りで酒場の外に出ると、マールは商人ギルドへと歩いていった。商人ギルドでマール自身の許可証を見せると、奥から担当者が出てきて個室に案内するという。
個室に備え付けてある椅子に座ると、マールは担当者に向かって素材の買取を依頼した。
「大量にあるからね。見ておくれよ。」
魔法袋から取り出した素材をテーブルに並べていく。
薬草が多く矢じりの材料となる魔物の骨や歯、魔石やミスリル鉱石も取り出した。
担当者は冷静に一つ一つを鑑定していく。
「中々上質の物が多いですね。」
「当たり前さね。Bランク冒険者が採ってんだよ。」
レイは先ほどBランク冒険者になったばかりで、素材のほとんどを採集したのは奴隷たちだが、マールはそんな小さなことはと言わんばかりに話を続ける。
「で、どれくらいかい?」
「全部で35万ゴールドでどうですか。」
「安いね。内訳聞かせておくれ。」
安いと言われて面食らった担当者は、薬草20万・骨などの魔物の素材10万・ミスリル5万ゴールドの金額を伝えた。
「そうかい。ライバ領ではポーションが不足してるようだね。」
「それは。」
「迷いの森に潜る冒険者には必要だね。その材料が20万は安いんでないかい?」
「大量ですので。」
「大量だから不足してるもんの材料を買いたたくのかい?消耗品だろ。」
「…少々色をつけますので。」
「で骨諸々が10万もね。先のオーガ戦で大分矢を使ったって聞いたよ。今は矢足りないんじゃないかい。」
「こちらも。」
「何だい。大量だから安いのかい。不足してるもんの値段は上がる。商売の基本さね。」
担当者に対して一方的にまくし立てる。
まくし立てながらもマールは種別に並べられた素材から、ミスリルや皮などを魔法袋の中にしまっていった。
3分の2ほどの素材がテーブルの上に残された。体力回復用ポーションの素材・魔物の骨と歯・魔石だ。
「これでどうだい。それぞれいくらになる。」
「そうですね。」
「色付けるっていうから期待してるよ。」
マールはニカっと笑い、担当者は素材ごとの買取相場が書いている手元の用紙を見ながら考えている。
「…薬草18万、魔石などの魔物素材9万、合計27万ゴールドでどうでしょう。」
マールは腕組みしながら考え込んでいたが、膝をポンと叩いた。
「良いだろう。成立さね。」
売買契約の書類を取り交わしマールは金を受け取った。金を数えて不足がないことを確認し、担当者と握手して商人ギルドを出た。
「やれやれ、面倒なことが終わったね。買い物行こうさね。」
意気揚々と店を品定めするマールを見ながらライバは呟いた。
「マーベラァァァァス。」




