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31 美しく燃える湖



 洞窟の中に唐突に現れたような美しい地底湖は、どこまで底が続いているのかわからないほどに深い。

 洞窟の岩壁の、内側から発光しているように見える赤い石は、炎貴石という。


 魔晶石の中に炎が閉じ込められているような石で、加工も採掘も手間がかかるものだ。

 美しいからと宝石のように使用されることもあれば、武器に加工されることもある。


 この場所が採掘されていないのは、王家の管理下にあるからである。

 美しい地底湖も、炎貴石の洞窟も、人の手が入らずに自然のままの形を残しているように見えた。


「わぁ、綺麗ですね。湖の中が燃えているように見えます」

「炎貴石の光が、湖に反射しているのね。確かに、綺麗だわ」

「炎貴石とは、ルビーとは違うのですか? わたくし、宝石のことはわかるのですが、石の類にはあまり詳しくなくて」

「鉱石という意味では同じよ。ただ、炎貴石は魔晶石と同様に、魔力を帯びている。地上に満ちる魔素が、石の中に含まれて鉱物となったものね」


 ソフィアナとアルテミスに問われたので、ベアトリーチェは答える。

 こういった魔素を含んだ鉱物は、魔道具の材料になる。

 炎貴石は、魔晶石よりも燃焼性がたかく、エネルギー効率がいい。

 大きな魔道具を動かすときの動力源としては適した物質である。

 飛空艇や地上帆船の動力源として、クリエスタは使用していた。


 ベアトリーチェは岩壁に触れる。

 飛空艇をまた作りたい。ベアトリーチェの作った飛空艇は──国王によって軍事活用されてしまった。

 だが、本来飛空艇とはもっと、夢がある乗り物だ。


「あまり、ゆっくりしているとまたカリヴァン先生に怒られてしまうわね。水をくんで戻りましょう」


 ガラス瓶に地底湖の水をくむため、ベアトリーチェは地底湖の前に膝をついた。

 ガラス瓶には長い鉄製の持ち手がついている。その持ち手を掴んで、瓶を地底湖の中に浸すのだ。

 この地底湖が、炎の精霊の湖と呼ばれている。

 だがやはり、精霊がいる様子はない。


 ただ──確かに、魔素の量が多いのは確かだ。

 魔素とは土地に満ちる魔力のこと。その場所によって濃度が違う。

 魔素の多い土地には強い魔物が現れやすい。


 魔物の親が現れて巣を形成した場合、その土地の魔素濃度が一過性にあがることがある。

 これは魔素汚染と言われており、植物や動物の生態系にも影響が出る。


 魔素によって、生き物が変性するのだ。とくに、大地から水や栄養を吸いあげている植物はその影響を受けやすい。

 ──土地が枯れるわけではない。

 むしろ、魔素汚染が起こると植物は生い茂り、その土地は豊かになる。 


 この研究も、クリエスタの時代には行われていた。

 だが今は、どうだろう。そういった話はきかない。


 アリステア家の現状を見るにつけ、魔物を討伐し人々を守ることだけに精一杯なようにも見える。

 なんせエルシオン自ら、魔物の巣に向かったぐらいなのだから。


「精霊、いませんね」

「精霊なんてものは、いいつたえですわよ。ソフィアナ、信じていましたの?」

「いたらいいなって、思って。どんな姿をしているのか、見てみたいなと思いますし」

「大きくておそろしいものだと思いますわ」

「小さくて可愛いかもしれませんよ」


 ソフィアナとアルテミスも水をくもうと湖の前に膝をついた。

 ベアトリーチェははっとして顔をあげると、二人の腰に抱きつくようにして、二人を押し倒すように湖から引きはがす。

 

 ベアトリーチェのガラス瓶が、地底湖の中へとこぽりと気泡をあげながら沈んでいく。


「ど、どうしました!?」

「ベアトリーチェ……?」

「伏せて!」


 突如、背筋が凍えるような嫌な予感がした。二人を避難させたのとほぼ同時に、エメラルドグリーンの美しい湖が真っ赤に染まる。

 

 ──マグマのようにごぼごぼと湖面は荒れ狂い、激しい炎をふきあげた。


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