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4話

 ここに来るまでに大層酷い目に遭っただろうことが傍目から見てもわかるほどのボロボロ具合で、金髪イケメン勇者はコアルーム……要はダンジョンの心臓部らしい僕たちの部屋?というか削られなかった地面に寝かされた。さすがに地面に直寝は睡眠の質が悪くなりそうで可哀想だったので、スライムに新たに指示を追加し、数十年寝かされる原因となったベッドへ勇者を寝かしつけた。

 

 「はは、はやくトドメをさしましょう!今すぐ!ハリーアップ!」


 どう翻訳されたらそう聞こえるんだ?というのもスルーして。


「生け捕りにしたのも僕なりの考えがあるんだよ」

「なるほど。己と、さらにそれと同義であるダンジョンの心臓。コア部屋にまで連れ込んだ理由とやらをお聞かせ願いましょうか」


 据わった目でこちらを睨む妖精に勇者を続々と渡ってくるスライムたちに囲ませる指示を出しながら、片手間に答える。ていうか心臓部とはいうけどここをどうしたらダンジョンが死ぬんだろう。


「1つ目は情報収集。まぁ君を疑うわけじゃないけど情報源なんてなんぼあってもいいし。2つ目はそもそも交渉できる存在なのかの確認。人間が問答無用で潰しに来るタイプじゃないなら僕としても助かるし。3つ目は……」


「3つ目は?」


「君の驚く顔が見たかった……って痛い痛い。ごめんってば」


 頬に空気を溜めながら僕をポコポコ殴る妖精。全長30cmに満たない存在とは思えないほどのパンチ力である。ドロップキックもそうだったけど普通に痛いぞ。それとも、それほどまでに僕の身体が貧弱だというのか。もしかして勇者が寝返りうっただけで僕死ぬんじゃないか。


「君とか妖精とか呼んでるけどやっぱり不便だな。名前ない?」

「話があっちこっち行くマスターですね……こういうのはマスターが名付けるものですよ。一応私もダンジョンに属する魔物みたいなものですし……」


 話しぶりに違和感を覚え首を傾げる。名前に執着してないというか、興味があまりなさげというか。個体識別番号くらいのイメージしかないのだろうか。神の御わす場所では。


「元々の名前とかないんだ」

「そうですね。神様はそんなの無くても意思を伝えられますし、そもそも私、チュートリアルのために産まれた妖精みたいなものですし個体識別以前の問題ですよ。不便ならマスターが付けてくださいよ」

「チューさん、フェアリー、フェア……チュフェー……うーん」


 元々ネーミングセンスがない人間だったのかもしれない。もしくは神様がミスってネーミングセンスだけ破壊したのか。それは壊れてない?じゃあ元からか。

 

「だめだこのマスター、センスがなさそうです。じゃあ……こちらの言葉でもそちらの言葉でも導くという意味のあるリードで」

「僕が考えるのよりはセンスありそうか。うちで働かない?」

「出来れば御社以外がよかったですね」

 

 まさか就活生側から断られるとは。しかし残念ながら僕の上役のさらに上役、というか共通の上司が君にその仕事を授けたのだから断るのは無理じゃないかな。

 そんな風に雑談しながら暇を潰していると、勇者がベッドの上で身じろぎを始めた。そろそろ起き上がるか寝返りをうつのかもしれないと離れると、突然凄まじい速さで起き上がった。危ない、やはり近くにいたら喰らっていた。


「姫様!!……つっ」


 突然起き上がった際に痛めていた足に負荷をかけたのか、苦しそうに患部を抑える勇者に対して警戒するように僕を盾にするリード。おい、仮にもマスターだぞ僕は。盾になるくらいの誠意を見せてほしい。


「元気そう……ではないね。大丈夫そ?」


 てかLINEやってる?

 

「貴君らが私を助けてくれたのか、感謝するよ。……人にしては珍しい妖精使いの冒険者か。まさかそんな貴重な存在にこんな【貪欲の大穴】で相まみえるとは。神に感謝を」


 多い多い。知らない単語が多すぎて話について行けないよ僕。妖精使いの妖精はリードのことだとして。職業:冒険者とかあるんだ。冒険するほどの土地面積と未開の地はあるっと。貪欲の大穴がこの場所で?人にしてはってことは人間以外の種族とも交流があると。もしかしたら肌の色によって人類扱いしないとかいう現代にあるまじきコンプラ違反かもしれないけど。うん、前世知識があればギリ理解できる。とりあえず今のところはコンプラ違反ではなくよくあるファンタジー世界ってイメージで行こう。

 起き上がった金髪イケメン勇者は僕自身が助けてくれたと思っているようで、胸に手を当てこちらに頭を下げた。まぁ間違ってはいない。


「で、どうするんですかマスター。聞きたいことがあったんじゃないんですか」

「うん。えーっと、勇者さんであってます?」

「ああ。もしかして会ったことが、いや。私の記憶にはないからもしかして凱旋式などで見られたかな?そうだよ。……と言っても、先日まではと言うべきだろうね。」

 

 先日までは、というと少し悲しそうな顔をしたのちにまたイケメンスマイルを浮かべた。そのどこか思い悩んでいるのを振り切るように浮かべた笑顔は、僕が女子だったらキャーキャー言っていただろう。男でよかった。


「僕が言うのもなんだけどどうしてここへ?」

「そうだ!姫、姫様は……!君たち、ここがどの程度の深度かはわからないがこの暗さと瘴気は貪欲の大穴だろう!ここに至るまでに姫様を見ていないか!」


 雑談している暇などないと思い出したように立ち上がろうとする。先ほどとは違い、今度は痛みなどねじ伏せるように無理やり起き上がり、かなりの剣幕でこちらへ詰め寄ってきた。ヒメサマなんて言われても。僕もさっき起きたばっかりだしここがその大穴だってことすら知らなかったのに。


「リード、ヒメサマ見た?あとなんか探す手段ってある?」

「振らないでくださいよなるべく隠れているんですから。……カオススライムがこんなにいるダンジョンですよ。だいたいわかるでしょ」

「おいおいリード君!まさかカオススライムが人を襲うなんて言うわけじゃ……!」


 うちの可愛いスライムたちがそんな積極的に人を襲うなんてまさかそんな。……いや襲わないのも問題だな。うち魔王軍なんだし。

 とりあえず本を開いてダンジョンマップを開き、ヒメサマ……まぁ姫様だよね。高貴そうな人間がいないか探してみる。知らなかったけれど3Dマップみたいにも見られるんだ。楽しいねこれ。


「あ、いた。一番下でカオススライムに埋もれてるけど普通に生きてるっぽい」

「なんだって!?」

「いやいや、カオススライムは生きてるだけで魔力を取り込んで代謝として瘴気を吐き出すスライムのかなり上位種ですよ。カオススライムの群れに人間なんかが行ったらひとたまりもないですよ」

「姫様は確かに瘴気や毒に対抗するアクセサリーをお持ちだ……それならば間違いない!」

 

 そういうと飛び込もうとする勇者様をクロスチョップで止める。当たり所が悪かったのか、いやこの場面ではよかったというべきか。とりあえず頭にも傷があったようで頭部を抑えてのたうち回るが仕方ない。とりあえずカオススライムたちにこの勇者と同様に姫様も運ばせよう。


「ぐっ……少年よ、何故止める。私は姫様を助けなくてはならないのだ……」


 なんとなくわかっていたけれど僕は少年と呼ばれるほどの年齢に見えるらしい。

 

「今その姫様運ばせてるから。ていうか仮に助けに行くとしても飛び込みはないでしょ、飛び込みは」


 もしかしてだけど勇者ならこの地の底が見えない穴の中に飛び込んだとしても大丈夫なのだろうか?なんか特殊なスキルとかでふわ~って浮くかもしれない。いや、それなら最初から歩かないで上から飛ぶだろうからな。


「運ばせている……?君は先ほどからやけにこのダンジョン内の機微に詳しいな。妖精使いの力かと思ったが、深部ともなると瘴気が濃く妖精の力にも限度があるだろう。……そういえば名前も聞いていなかったな、良ければ聞いても?」

「あわわ、敵対しそうですよマスター。どうするんですかこれ」

 

 さすがの勇者様もこんなところにベッドまで持ち込みくつろいでいる僕に違和感を覚え……そりゃそうか。冷静に考えたらダンジョンに詳しいとかじゃないだろまず。この場所だけで怪しさ満点すぎるなこれ。


「うーん、タンマ」


 作戦タイムとばかりに後ろを向いてリードと話す。この世界にも少し時間をくれという意味でタンマが通じたらしい。

 

「どうするんですか、今ならまだボロボロっぽいですし下にぽいってすれば倒せますよ」

「無理。鎧付きの人間重すぎで運べる気しないし身じろぎで僕消しとびそう。……とはいえ勇者をここまで運ばせたのは僕だよ。こうなる展開も当然想定済み。僕の華麗なる交渉術を見せてやるってんだい」

「おお、一体どんな交渉を」


 タンマを終わらせ、リードと話し終えた僕は警戒する勇者を横に玉座へ腰掛け、足を組みながら尊大な顔をする。そう、前世の朧げな記憶にある魔王っぽい感じで。


「ふっ……そんなに警戒するな勇者よ。傷だらけの身体で何ができるというのか……」

「うーん、絶対に選択肢間違ってます。交渉ではないですこれ。威圧ですね」


 おっかしいな。僕の中ではこれがベストコミュニケーションだったのに。

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