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2話

 アラート音により突然に意識が覚醒する。体を起こすが景色が全く違う。

 最初は玉座、ベッド、召喚陣が適当に配置された広いほら穴のような見た目だったはずだが、今は僕が体を起こしたベッド、そして玉座。それ以外ほぼ見当たらない。

 なぜならベッドの横を向けば底すら見えない真っ暗な穴なのだ。落ちないように注意を払いつつ天井の方を向けば少しだけ明かりが差し込んでいる、周囲の状況も把握できる程度には薄い光は通っているがそれでも縦穴の底は見えない。ここはどれほどの深さにあるというのだろうか。

 勇者が侵入してきたことでアラートが鳴ったらしいけれど……こんな場所にどうやって勇者が辿り着くというのだろうか。状況が全く飲み込めないのでベッドの上に置かれた本を開き、今更ながらにチュートリアルの部分を開いた。すると視界の端にあったチュートリアルを始めようの欄が消滅し、本が光を発しだした。


 本から視界を覆わんばかりの光が発せられ、これ幸いと本を穴の底へ向け照らしてみる。強い光は地面まで照らしてくれた、底の方ではおそらく召喚したであろうスライムと設置した召喚陣がまだ生きているらしく、ずるずると蠢く生命体が観測できた。しかし最初に召喚した時より色が黒くなっている気がするのは、時間経過のせいかな。

 下の状況がボヤけて来たと思うと本の光が弱まっていた。あ、まだ消えないでほしい……と思った時には手に感じていた本の重さがフッと消え、小さな妖精のようなものが手のひらに収まっていた。そのまんま小さくしたような人の体に、虫を思わせるような薄い羽、イメージする妖精の姿が手に収まっていた。反対向きに。


「『ダンジョンを作ろう』。チュートリアルを始めていただきありがとうございます!チュートリアルを担当させていただきます案内妖精……ってうわあぁぁ!」


 元気よく答えてくれたはいいものの、自身が地の底に向けられていることに気付いた妖精は手足をバタバタとさせもがいている。


「いや君、羽あるし落ちても平気なんじゃ」

「落ちても死なないし落ちないかもしれないですけど目覚めて即!この状況ですよ!もし私の羽が硬直して下に落ちちゃったらどうするんですか!」

「びっくりする」

「すごい人ごとですね!いいからとりあえず私も上にあげてください!」


 静かなほら穴に声が響くので、言われた通りにベッドの上に置く。無事に降ろされた妖精は肩で息をしながらも少しだけパタパタと羽ばたかせた。


「えらい目にあいました……なんでチュートリアルの段階でこんなことに……」

「僕もわかんない」

「あなたでわからないなら誰にもわかりませんよ!」

「そうは言われても……」


 周囲を見回す、ベッド、玉座に岩肌……穴。暗闇。たぶん穴。暗闇。そっちも穴。で、暗闇。何があったかというか何もないが正解である。周囲を見渡した妖精も同じことを思ったのか、顔を引きつらせていたかと思うと、大声を出した。


「とりあえずマスターブックを開いてください!」

「マスターブックってあれでしょ、めっちゃ眩しい本。さっきまであったけど君が」

「ああ、そうでした!まだチュートリアルの段階でした!ああもう!とりあえずこれです!」


 どこからか最初に本が現れた時と同じように空中へ光が集まり、その光は粘土のように姿を変え本を形成した。ついでに今の光で少し壁の方が見えたが、壁にも小さい穴が無数に開いている。やっぱり暗闇か穴しかないわこの空間。壁面までそうとは。

 とりあえず光の時とは違い本になったことで重力を与えられたそれを適当に開く。

 

「開いたけど」

「そこのページじゃなくて……ああ!まさかチュートリアルでこんなことになるなんて思ってませんでした!【データ】の章から【戦力】のページ開いて、ダンジョン軍力を見てください!」


 何だその項目。そんなもの……増えてる。なるほど、チュートリアル受けないと項目が増えなかったのか、それは思いつかなかったな。


 じゃあ召喚できるモンスとかも増えてるのかな、ちょっと見て……ダメですよね。ハハハ、冗談です。


「まったく……え、軍力9万!なんでそんなことに!」


 基準がわからないから全然凄さがわからない。チュートリアル妖精が驚いているからたぶんチュートリアル段階よりは高いんだろう。スライムしか召喚していないし低すぎる可能性もある。


「あの、一旦送還して頂いてもよろしいですか?」

「それは問題ないけど、どうやってやるの」


 こちらがすべてのチュートリアルを受けてるみたいな言い方はやめてほしい。今のところスライムを召喚することと、軍力を見ることしか教えてもらってないのだから。


「一旦帰れ~って念じるだけで平気なので!一瞬だけ戻していただければ大丈夫なのでお願いします!終わったらチュートリアルのページまた開いていただければいいので!」


 そんな念じるだけなんて。と思い試しにかーえれ、かーえれとブーイングを浴びせるように念じると目の前から妖精が消えた。なんてこった。僕はブーイングを浴びせてまで帰らせるつもりなんてなかったのに。と思いながらせっかくだし妖精の意思をついでチュートリアルでもやるか……とページを開こうと思った際、本から難しそうな顔をした妖精がまた現れる。


「現状把握してきました……あと非難する感じで帰らせないでください」

「めっちゃ早いんだね」


 本当に一瞬だったんだけど。ブーイングを喰らってそんな直ぐ帰ってくるなんてとんでもないメンタルの持ち主だ。なんか特殊な能力でもあるのかな。


「聖史200年……ダンジョンが生まれてからすでに50年は経っているみたいですね」

「僕が999か月睡眠を選んじゃったからだね。計算上だと80年くらい寝る予定だったけどアラートで解除された」

「普通そんなことにはならないんですよ!」


 やったね特別だ。でも999か月睡眠を押した瞬間に眠ったので僕には止められなかったんだ。999か月設定出来たらしちゃうのが人間だよ。僕は悪くない!信じてくれよ!そう思いながら妖精の目を見つめてみるが、呆れた顔で返された。なんでだ。


「一応睡眠に確認がないのはあちらでもまずいと思ったらしく調整されたらしいです。今回はお詫びを兼ねてあなたの置かれている状況まで詳しく説明してよいと」

「あちら?さっきからなんか詳しい人に聞いてきたみたいな言い方だけど」

「神様ですね!」


 本当に神様が設定してたんだ。

 

「なんか久々に聞いたね、そういう神様が転生させてくるタイプのやつ。最近の神様界隈では流行ってないのかと思ってた」


 縁の下の力持ちをなぜかそいつの力量を把握してないやつらによって追い出させたり、高等教育を受けているはずの貴族男子たちが婚約を破棄してなぜかその令嬢がすごい能力を持っていたことにより衰退していく遊びが流行ってるのかとばっかり。


「たぶんあれですよ、ゲーム一覧見てたら久々に街作りゲームとかやりたくなるときあるじゃないですか」


 本当に遊びでやってたんだ。まぁ、その気持ちはわからないでもないけど……ってそんな例えがわかるってことは少なくとも妖精も地球の文化に詳しいってことか。


「チュートリアルの特性上言語はあなたでもわかりやすく例えられるようになっていますので。……そもそも、このチュートリアルという単語も同一意味の言語を抽出された上でそういった風に聞こえています」

「あー、なるほど?」

「……わかってなさそうなので言うと、全部自動翻訳してるだけだと思ってください」


 最初からそう言ってくれればわかりやすかったのに。


「まぁそんなことはどうでもいいです。とりあえず戦力の把握から始めましょう」


 お、今のセリフはすごいチュートリアルっぽかったな。ペラペラと本をめくると妖精が本を覗き込んでくる。手を動かし続けているとある1ページで手を止めさせられる。


「ここです!これが現在いるあなたの……そういえばダンジョンマスター。あなたの名前はなんなのでしょうか」

「名前覚えてないんだよね。神様なんか言ってなかった?」


 普通自分の名前を覚えてなかったらわりとパニックになると思うのだけれど、自分でもどうかと思っちゃうほどに神経が図太いようで全然気にならないし気にしてなかった。そもそも妖精が来る前は一人だったから呼ばれることもなかったし不便さも感じてなかったのだ。


「むむむ。設定ミス、ですかね。なぜかあなたの名前、それに生い立ちなどのパーソナルデータグチャグチャになっちゃってます。ただ性格や出生、記憶なんかは断片的に残っているようなので……文字化けしてるファイルと正常なファイルが混在しているみたいな状態ですね」

「それも神様に苦情言っといてね」

「今リアルタイムで交信してますが、伝わってはいるみたいです。具体的には人間タイプのダンジョンマスターを見たかったらしいですけど、この世界にちょうどいい感じの魔王の才を持っている人類種がいなかったので、せっかくだから異世界から輸入したらちょっと齟齬が生じちゃったみたいです」

「もっとゲームっぽく説明して」

「追加MODかDLC入れようとしたら元データ破損です、バックアップなし」


 わぁ、思い付きで言ったけどわかりやすい。ゲーマーだったのかな僕。わかりやすくなった上に恐ろしいこともわかった。元々にない要素を追加しようと作ったのをねじ込んだら壊れちゃったんだ。


「とりあえずダンジョンマスターなのでそのまんまマスターってことにしときましょうか。マスター、このページを見てください」


 まぁ僕のイメージでもダンジョンマスターと従者を従えているタイプの魔術師はそう呼ばれているイメージがあるよ。それはともかく、妖精が指すページに目をやると、そこにはダンジョン内に生息するモンスターの名前があった。カオススライム×987、なるほど。これが我が軍。


「これすごいの?」

「まだ入り口開放してちょっとのダンジョンだと想定すると、バグレベルですね。他の神からうちの神にクレームが行きます」


 バグまみれじゃん僕。ていうか入口解放した記憶ないのに侵入されてるんですけど。

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